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#小説

【㊗発売即重版!】ピアニスト・藤田真央さん初著作『指先から旅をする』

 ピアニスト・藤田真央さんによるエッセイ&語り下ろし連載「指先から旅をする」がこのたび本になりました。 弱冠24歳にして「世界のMAO」に 2019年、20歳で世界3大ピアノコンクールのひとつ、チャイコフスキー国際コンクールで第2位入賞。以降、世界のマエストロからラブコールを受け、数々の名門オーケストラとの共演を実現させてきた藤田さん。 現在はベルリンに拠点を移し、ヴェルビエ音楽祭、ルツェルン音楽祭といった欧州最高峰の舞台で観客を熱狂させています。 エッセイ&語り下ろし

【4夜連続公開】朝倉かすみ「よむよむかたる」#011

ついに完成した記念冊子に胸をときめかせる一同。そんな中、読書会を急遽欠席したマンマの息子から電話がかかってきた。 ▼第1話を無料公開中! 6 一瞬、微かに さもありなん。安田の頭にひょいと浮かんだフレーズだ。さもありなん、さもありなん。それが繰り返されている。手持ちの語彙のひとつではあったが、使ったことは一度もなかった。なのにさっきから脳内にバーゲンセールの販促ポップみたいにべたべたと貼られていく。  九月二日金曜日。例会の最中である。ふた月振りというのに空気が重い。まる

【4夜連続公開】朝倉かすみ「よむよむかたる」#010

まちゃえさん夫妻の息子・明典に、かつて何が起きたのか。美智留は彼と過ごした青春時代について語り始めた。 ▼第1話を無料公開中!  マンマがそうしたように、安田は拳を突き上げてみせた。口角を思い切り上げて拍手する美智留と視線を合わせたまま、その手を下ろし、胸にあてがう。「控えめに言って」と前置きし、 「こころが震えた」  と目を細めた。同じ目をしてうなずく美智留に浅い笑いを返して言う。 「六月に読んだ課題本の文章がパワポみたいに浮き上がってきた。ぼくはこぼしさまの国の番人を

【4夜連続公開】朝倉かすみ「よむよむかたる」#009

▼第1話を無料公開中! 5 冷麦の赤いの 夕方から立て込んで、店を閉めたのは夜八時すぎだった。  夏休み旅行がピークに差しかかる八月最初の金曜日。  客はツーリストがほとんどで、喫茶シトロンの店内ではちょっとしたお国訛りの競演となった。きっかけはサッちゃん。最初は関西弁の二人連れに「おおきに」と言ってみるくらいだったのだが、テーブルごとに「ありがとない」だの「だんだん」だのと教えられて広がった。「シェーシェ」の家族連れもいて、サッちゃんはそこん家の五、六歳の息子のツーブロッ

岩井圭也「われは熊楠」:第六章〈紫花〉——終幕、そして

第六章 紫花 中屋敷町の邸宅の上には、今にも降り出しそうな分厚い雲がかかっていた。  湿気た空気が漂う庭には、楠や安藤蜜柑の木が植えられ、地面には一面枯葉が敷き詰められている。栴檀が藤色の花を咲かせていた。一九四一(昭和十六)年六月のことだった。  戸を開け放した八畳の離れに、男女の人影があった。女のほうは、横たえたテングタケを肉眼で観察しながら、紙の上に絵筆を走らせている。その傍らで、老いた男は顕微鏡を覗きこんでいた。  老人——齢七十四の南方熊楠は、地衣類の検鏡に集中して

寺地はるな・新連載スタート!「リボンちゃん」#001

第1話 商店街のスピーカーから流れてくる調子っぱずれなクリスマスソングにかぶせるように「焼き立てパンはいかがですか」という若い女の店員の甲高い声がひびきわたった。青果店の店主もパン屋に負けじと大声で「しいたけつめ放題だよ!」と客を呼びこむ。  あちらこちらにクリスマスツリーが乱立しており、アーケードの天井からは季節はずれの桜の造花がたれさがっている。色とりどりの看板やのぼり、壁にはポスター。かわいい女の子がにっこり微笑んでいるそのポスターには覚せい剤は絶対にダメである旨が書か

寺地はるな〈はじまりのことば〉

 じつを言うと、2016年ごろからずっと小説のアイデアが尽きている。2016年というと、はじめての単行本が出た翌年だ。いくらなんでも尽きるのがはやすぎる。  書きたいことなんかもうなんにもないよ! と思いながらもどうにか絞り出してきたのだが、去年あたりからめっきり体力が落ち、集中力も十五秒ぐらいしか続かなくなり……といったあんばいで、いよいよもうむりなんじゃないかと思いはじめた。  別冊文藝春秋の連載前の打ち合わせで「女性用下着の話を書きませんか(大意)」と言われた時も、反射

堂々完結! 今村翔吾「海を破る者」#026(最終回)

荒波に呑み込まれんとする蒙古兵たちを前に、六郎が下した決断とは――。感動の叙事詩、堂々の完結! 「追い首は手柄にならぬ。ましてや抜け駆けならば猶更。ならばいっそのこと救い上げ、それでも向かって来た時に討ったほうがよい」  敗走する敵を討つのは誉とされず、手柄にならぬこともほとんど。それが抜け駆けならば、罰せられることさえあるのは確かだ。  しかし、短い付き合いであるが解る。手柄に拘る自らの流儀は崩さない。そのように見せ掛けてはいるが、それが決して本心ではないことを。季長は沈

高瀬隼子×大前粟生「怖くてあたたかい小説の世界」|『め生える』『チワワ・シンドローム』を語りつくす初対談!

 大前粟生さんの『チワワ・シンドローム』を読んだ高瀬隼子さんの第一声は「待って、こわいこわいこわい」。対等なはずの友人関係に潜む「支配」を鋭く描き出した作品です。  私たちを取り巻くそのような「怖さ」を絶妙に掬い取って小説にするお二人の創作の秘密に迫ります。(司会進行=U-NEXT・寺谷栄人/撮影=松本輝一) ——お二人はちゃんとお話しされるのははじめてなんですよね。高瀬さんは愛媛から大学進学で京都に出られて、大前さんは兵庫から京都に出られて、大学時代を京都で過ごされたとい

矢月秀作「桜虎の道」#006

第5章1  桜田は一睡もしないまま、事務所に出勤した。自席につき、息を吐くと、そのまま机に突っ伏しそうになる。  そこに、有坂が出勤してきた。 「おはようございます!」  大きな声が桜田の耳に響く。  有坂はカツカツと靴を鳴らし、桜田に近づいてきた。 「おやおや、桜田さん! 元気ありませんねえ。大丈夫ですか?」  有坂が言う。  桜田は顔を向けた。相変わらず、有坂は笑顔だ。心配しているんだか、からかっているんだか、わからない。 「ええ、まあ……」  桜田は太腿に手をついて、

伊岡瞬「追跡」#004

10 火災二日目 樋口(承前) アオイに指示されるがまま、樋口透吾の運転するレクサスは、中央自動車道を西へ進む。  ほどなく神奈川県に入り、それもすぐに通り過ぎ、山梨県に入った。 「どこまで進みます?」  ルームミラーで、アオイと『雛』こと因幡航少年のようすをちらりとうかがう。アオイは視線を伏せて何か操作している。スマートフォンで位置情報の確認をしているか、誰かと交信しているのかもしれない。  航はほとんど無表情のまま、窓の外に視線を投げている。多少不安げではあるが、もっと濃

大木亜希子「マイ・ディア・キッチン」第3話 料理監修:今井真実

第三話 この街に来て、あっという間に二ヶ月半が過ぎた。  その間に季節は冬を迎え、夜の商店街ではクリスマスのイルミネーションが光輝いている。花屋や雑貨屋の軒先にはクリスマスのオーナメントが飾られ、居酒屋ひしめく一帯からはおでんの香りが漂う。そのアンバランスさを、真っ直ぐに伸びるアーケードが包み込んでいた。  もう二十時だというのに人通りは多い。どこからともなく流れる『ジングルベル』のBGMを聴きながら私は今、人々からの好奇の目に晒されていた。  天堂さんに那津さん、そして私。

秋谷りんこ「ナースの卯月に視えるもの」 #001 #002

1 深い眠りについたとしても  夜の長期療養型病棟は、静かだ。四十床あるこの病棟は、ほとんどいつも満床だというのに。深夜二時、私は見回りをするためにナースステーションを出て、白衣の上に羽織ったカーディガンの前を合わせる。東京の桜が満開になったとニュースで見たけれど、廊下はまだひんやりしている。一緒に夜勤に入っている先輩の透子さんは休憩に行った。  足音に気を付けながら個室の冷たいドアハンドルに触れる。ゆっくり引き戸を開けると、シュコーシュコーと人工呼吸器の音だけが響いていた

「思わず一気読み」「心からおすすめしたい」など激推しの声多数! 大前粟生さん『チワワ・シンドローム』のレビューをご紹介します

 大前粟生さんの最新刊『チワワ・シンドローム』が2024年1月26日に発売になりました。早くも届いた読者の方々からの〝激推し〟の声の数々、ご紹介いたします! *** 書評も続々公開されています! 一部引用してご紹介します ▼「Forbes JAPAN」三橋曉さん評 ▼「本の雑誌WEB」高頭佐和子さん評 ▼「ダ・ヴィンチWEB」立花ももさん評  『チワワ・シンドローム』の冒頭はこちらで試し読みができます。たっぷり45ページ分! 先読み書店員さんのご感想とともにお楽し