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#ミステリー

【㊗発売即重版!】ピアニスト・藤田真央さん初著作『指先から旅をする』

 ピアニスト・藤田真央さんによるエッセイ&語り下ろし連載「指先から旅をする」がこのたび本になりました。 弱冠24歳にして「世界のMAO」に 2019年、20歳で世界3大ピアノコンクールのひとつ、チャイコフスキー国際コンクールで第2位入賞。以降、世界のマエストロからラブコールを受け、数々の名門オーケストラとの共演を実現させてきた藤田さん。 現在はベルリンに拠点を移し、ヴェルビエ音楽祭、ルツェルン音楽祭といった欧州最高峰の舞台で観客を熱狂させています。 エッセイ&語り下ろし

夕木春央「有栖川有栖嫌いの謎」――有栖川有栖デビュー35周年記念トリビュート――をお届けします

一 東京からは一日がかりだった。朝九時に品川駅で担当編集の水戸部氏と待ち合わせて、新幹線で岡山に向かうと、そこからは在来線とバスを乗り継ぐ。バスの本数が少ないから、停留所で二時間余りの暇つぶしが必要だった。  夕暮れ前にバスを降りると、川の向こうに宿泊予定の温泉ホテルが見えた。遠目にもコンクリートのひび割れが明らかな、いかにも古い五階建てだった。見渡す限り、他に背の高い建物はない。 「なんだ、これ地図見なくても余裕ですね。では、あそこまで歩きなので」 「ああ、はい」  水戸部

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白井智之「ブラックミラー」――有栖川有栖デビュー35周年記念トリビュート――をお届けします!

※『マジックミラー』(有栖川有栖・著)の真相に関わる記述があります。未読の方は必ず先にお読みください。 1 友人からメッセージが届くと気が重くなる。何か迷惑をかけただろうか。気を悪くするようなことを言っただろうか。僕は気を揉みながら十分くらいかけてメッセージを開く。するとたいてい、「最近どう?」とか「元気?」とかスカスカの麩菓子みたいな言葉が並んでいる。僕は胸を撫で下ろすが、返信を練るうち、今度はだんだん腹が立ってくる。なぜこんな駄菓子野郎に自分の近況や健康状態を開示しなけ

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伊岡瞬「追跡」#004

10 火災二日目 樋口(承前) アオイに指示されるがまま、樋口透吾の運転するレクサスは、中央自動車道を西へ進む。  ほどなく神奈川県に入り、それもすぐに通り過ぎ、山梨県に入った。 「どこまで進みます?」  ルームミラーで、アオイと『雛』こと因幡航少年のようすをちらりとうかがう。アオイは視線を伏せて何か操作している。スマートフォンで位置情報の確認をしているか、誰かと交信しているのかもしれない。  航はほとんど無表情のまま、窓の外に視線を投げている。多少不安げではあるが、もっと濃

【アーカイブ動画公開!】祝・華文ミステリ15周年、歴代の傑作&新刊一挙ご紹介スペシャル

2024年2月末に行われた配信イベントの アーカイブを公開しました ※  歴代「華文ミステリ」の最高傑作はどの作品か? そして2024年に翻訳刊行される新作の魅力とは?  島田荘司さんが命名した「華文ミステリ(中国語で書かれたミステリ小説)」の嚆矢は、アジア各地の傑作本格ミステリを紹介した「島田荘司選 アジア本格リーグ」(講談社)の『錯誤配置』藍霄(台湾)と『蝶の夢 乱神館記』水天一色(中国)の2作品で、ともに2009年に刊行されました。  それから15年、台湾からは

【前後篇同時公開!】荒木あかね の ”アリバイ崩し”ミステリー ……「壊すのは簡単」〈後篇〉

壊すのは簡単 〈後篇〉   犯行当日の朝八時、西村は近所にある運送会社の営業所へと足を運んでいた。営業所止めで西村宛の荷物が届いていたので、八時にセンターが開くのと同時に受け取りに行ったのだ。  荷物を渡した担当者は西村の顔を覚えていて、西村本人が荷物を受け取ったことも確認している。西村の方から積極的に話しかけていたので印象に残っていたそうだ。 「でも、朝八時に生きている姿が目撃されただけじゃ犯行時刻は狭まらないだろ」 「肝心なのは、西村が受け取った荷物の中身だよ。営業所に配

【前後篇同時公開!】荒木あかね の ”アリバイ崩し”ミステリー ……「壊すのは簡単」〈前篇〉

壊すのは簡単 〈前篇〉  畑の畝のように細長く波立った雲が遠くに見える。冬の空は濃い青色をしていた。  閑静な住宅街に、唸るような重機のエンジン音が響いていた。ショベルカーのバケットが重い瓦礫を廃棄用の山に落とす度に土埃が巻き上がり、地面が揺れる。傍に立っているだけで足の裏から振動が伝わって、指先まで震えるような感覚を覚えた。  梅崎工業の五名の解体作業員たちは、さいたま市西区指扇の住宅地に建つ、木造二階建ての空き家の解体工事を行っていた。  先月末に始まった解体作業は、今日

伊岡瞬「追跡」#003

6 火災二日目 葵(承前)〈先生、何をなさってるんです——〉  電話の向こうで、新発田信のものとは違う声が聞こえた。  通話口から少し離れていて聞き取りづらいが、葵にはそれが誰の声かすぐにわかった。新発田の私設秘書、加地由伸だ。  がさごそと、もみあうような音が聞こえる。加地が受話器を取り上げようとしているらしい。 〈おやめください〉加地が冷静に、きっぱりとした口調で諫める。 〈しかし、こいつが——〉という、新発田の声が聞こえたが、尻すぼみになった。加地が取り上げたらしい。

古代エジプトの密室トリックにミイラが挑む!|『このミス』大賞受賞作・白川尚史『ファラオの密室』インタビュー

「経営者としての日々を送るなかで、心のどこかにいつも〝作家への憧れ〟がありました」  スーツに身を包んだ白川尚史さんは、そう穏やかに語り始めた。東京・赤坂の高層ビル25階に位置した、近未来を思わせるガラス張りの会議室。「GALAXY」と名付けられたこの空間は、証券ビジネスを展開するマネックスグループの本社オフィスだ。白川さんは東京大学工学部を卒業後、AIベンチャー「AppReSearch(現在は「PKSHA Technology」)」を東大の先輩と共に創業し、代表取締役に就任

荒木あかね最新ミステリー! 読み切り短篇「置き去りイヤリング」公開

 臍の三センチ下あたりにぐっと力を込め、背筋を伸ばす。頭のてっぺんをピアノ線で引き上げるようにイメージして。正しい姿勢は接客の基本だ。  三号車の扉を前に、私は一つ深呼吸をした。それは客室に入る前のルーティンだった。新鮮な空気を肺に送り込みながら、心の中で「私は完璧」と呟く。私は完璧。だからこの先に一歩でも足を踏み入れてしまえば、もう失敗は許されない。  自動扉を抜けると立ち止まり、腰から上体を折って一礼する。 「お食事とお飲み物をお持ちいたしました」  東京駅を七時ちょうど

人気ホラー系YouTuberが放つ“一度読んだら忘れられない”完全犯罪小説|やがみ『僕の殺人計画』インタビュー

 ミステリー小説を愛する敏腕編集者・立花のもとに、ある日、送り主不明の原稿が届く。どうやら小説であるらしいその原稿は次のように始まる。「このときがようやく来た。/僕はあなたを殺します。/決して誰にもバレずに。」——これは小説なのか? それとも立花に宛てられた殺人予告なのか?  YouTubeチャンネル登録者数75万人超えを誇る人気ホラークリエイターのやがみさんが11月に刊行した初の小説『僕の殺人計画』は、「究極の完全犯罪」をテーマに、編集者と「謎の殺人予告小説」の書き手の頭脳

伊岡瞬「追跡」#002

3 火災一年前 因幡将明が書斎で朝食前の読書をしていると、スマートフォンに着信があった。  午前六時五分前だ。将明は読みかけの本を机に伏せ、スピーカーモードで繫いだ。 「何か」  昨夜から宿直当番だった、筆頭秘書の井出が報告する。 〈お忙しいところ申し訳ありません。福村様からお電話が入っております〉  福村といえば、三人いる内閣官房副長官のひとりだ。官房長官の田代でないということは、その程度の案件ということだろう。しかしその一方で、どうでもいい話でかけてくるにはまだ少し時刻が

結城真一郎最新ミステリ!「大代行時代」をお届けします

わが銀行に入行した〝モンスター新人〟は、業務に関わる質問を誰にもしてこない。彼はどうやって仕事を回しているのだろう――? 2022年刊行の『#真相をお話しします』が累計20万部を超える大ヒットとなった結城真一郎さんの最新ミステリ短篇をお届けします。 大代行時代 いつの間にやら「近頃の若いやつは……」と言われる側から言う側に回っている。普段から殊更に意識しているわけではないけれど、季節が廻り、年度始まりの四月を迎えるたびに、そこはかとない焦燥感がせり上がってくる。仕事のこと

「創作大賞2023」決定! 「別冊文藝春秋賞」は秋谷りんこさんに贈呈します

 2023年4月25日〜7月17日に開催された日本最大級の投稿コンテスト「創作大賞2023」。  エンタメ系電子小説誌『別冊文藝春秋』及び「WEB別冊文藝春秋」は、〈お仕事ミステリー小説〉に参加いたしました。  どれも読み応えのある作品ばかりで、編集部一同たいへん楽しく拝読しました!  たくさんのご応募、誠にありがとうございました。 『別冊文藝春秋』は、〈お仕事小説部門〉〈ミステリー小説部門〉の作品を拝読し、最終候補四作をセレクトしました。 ・「殺人小説の書き方」古池ね