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#ミステリー

【直木賞ノミネート!】麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』第1話無料公開 ~意識の高い慶應ビジコンサークル篇~

〈タワマン文学〉の旗手・麻布競馬場待望の第2作『令和元年の人生ゲーム』。発売直後から「他人ごととは思えない!」と悲鳴のような反響が続々と…… 4月、やる気に満ちた新入生の皆さまの応援企画として、第1話〈意識の高い慶應ビジコンサークル篇〉を期間限定で全文無料公開いたします! これを読めば5月病も怖くない……はずです。 『令和元年の人生ゲーム』 第1話 平成28年  2016年の春。徳島の公立高校を卒業し、上京して慶応義塾大学商学部に通い始めた僕は、ビジコン運営サークル「イ

【アーカイブ動画公開】五十嵐律人×浅倉秋成×白井智之ライブトーク!「ダークミステリーが好き」

※記事の下部「購読者限定エリア」にて アーカイブ動画がご覧頂けます。  リーガルミステリーで人気の五十嵐律人さんの新作『魔女の原罪』が2023年4月24日に発売になりました! これを記念して、5月1日(月) 20:00から人気作家3人によるライブトークが開催されました。 『魔女の原罪』にまつわるお話はもちろん、過激な設定やビターな味わいが堪能できる「ダークミステリー」についての楽しみ方、さらに三者三様の創作流儀や代表作にまつわる創作秘話までたっぷり90分! 当日ご覧になれな

阿津川辰海「山伏地蔵坊の狼狽」——有栖川有栖デビュー35周年記念トリビュート――をお届けします!

1 この店から、最後の灯が消える。  という文章を思い浮かべれば、ロマンチックな気分になるかと思ったが、そうでもない。  僕、青野良児はほとんど機械的な動作で、レンタル落ちのビデオテープをレジに通していた。  僕は同い年の友人と二人で、町に五つあるレンタルビデオ店の一つを経営していた。しかし、時代の流れに抗えず、五つあった店は四つになり、三つになり、遂に最後の砦である僕たちの店も今日、店じまいをする。VHSからDVD、ブルーレイという流れまではついていくことが出来たが、配信サ

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伊岡瞬「追跡」#005

13 火災二日目 樋口(承前)「その話は長くなるからやめましょう。知り合い、とだけ答えておきます」  二人の反応はない。顔もほとんど見えないので、機嫌がいいのか悪いのかもわからない。 「そんなことより、暗くなる前に腹ごしらえしませんか」  樋口は話題を変えた。ダッシュボードの時計は午後六時二分を表示している。返答を待たずに続ける。 「日没まであと一時間ほどですし、このあたりは山の陰になっているから、すでに日も翳り始めている。もっとも、刑事さんにとってはまだまだ宵の口かもしれま

夕木春央「有栖川有栖嫌いの謎」――有栖川有栖デビュー35周年記念トリビュート――をお届けします

一 東京からは一日がかりだった。朝九時に品川駅で担当編集の水戸部氏と待ち合わせて、新幹線で岡山に向かうと、そこからは在来線とバスを乗り継ぐ。バスの本数が少ないから、停留所で二時間余りの暇つぶしが必要だった。  夕暮れ前にバスを降りると、川の向こうに宿泊予定の温泉ホテルが見えた。遠目にもコンクリートのひび割れが明らかな、いかにも古い五階建てだった。見渡す限り、他に背の高い建物はない。 「なんだ、これ地図見なくても余裕ですね。では、あそこまで歩きなので」 「ああ、はい」  水戸部

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白井智之「ブラックミラー」――有栖川有栖デビュー35周年記念トリビュート――をお届けします!

※『マジックミラー』(有栖川有栖・著)の真相に関わる記述があります。未読の方は必ず先にお読みください。 1 友人からメッセージが届くと気が重くなる。何か迷惑をかけただろうか。気を悪くするようなことを言っただろうか。僕は気を揉みながら十分くらいかけてメッセージを開く。するとたいてい、「最近どう?」とか「元気?」とかスカスカの麩菓子みたいな言葉が並んでいる。僕は胸を撫で下ろすが、返信を練るうち、今度はだんだん腹が立ってくる。なぜこんな駄菓子野郎に自分の近況や健康状態を開示しなけ

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伊岡瞬「追跡」#004

10 火災二日目 樋口(承前) アオイに指示されるがまま、樋口透吾の運転するレクサスは、中央自動車道を西へ進む。  ほどなく神奈川県に入り、それもすぐに通り過ぎ、山梨県に入った。 「どこまで進みます?」  ルームミラーで、アオイと『雛』こと因幡航少年のようすをちらりとうかがう。アオイは視線を伏せて何か操作している。スマートフォンで位置情報の確認をしているか、誰かと交信しているのかもしれない。  航はほとんど無表情のまま、窓の外に視線を投げている。多少不安げではあるが、もっと濃

【アーカイブ動画公開!】祝・華文ミステリ15周年、歴代の傑作&新刊一挙ご紹介スペシャル

2024年2月末に行われた配信イベントの アーカイブを公開しました ※  歴代「華文ミステリ」の最高傑作はどの作品か? そして2024年に翻訳刊行される新作の魅力とは?  島田荘司さんが命名した「華文ミステリ(中国語で書かれたミステリ小説)」の嚆矢は、アジア各地の傑作本格ミステリを紹介した「島田荘司選 アジア本格リーグ」(講談社)の『錯誤配置』藍霄(台湾)と『蝶の夢 乱神館記』水天一色(中国)の2作品で、ともに2009年に刊行されました。  それから15年、台湾からは

【前後篇同時公開!】荒木あかね の ”アリバイ崩し”ミステリー ……「壊すのは簡単」〈後篇〉

壊すのは簡単 〈後篇〉   犯行当日の朝八時、西村は近所にある運送会社の営業所へと足を運んでいた。営業所止めで西村宛の荷物が届いていたので、八時にセンターが開くのと同時に受け取りに行ったのだ。  荷物を渡した担当者は西村の顔を覚えていて、西村本人が荷物を受け取ったことも確認している。西村の方から積極的に話しかけていたので印象に残っていたそうだ。 「でも、朝八時に生きている姿が目撃されただけじゃ犯行時刻は狭まらないだろ」 「肝心なのは、西村が受け取った荷物の中身だよ。営業所に配

【前後篇同時公開!】荒木あかね の ”アリバイ崩し”ミステリー ……「壊すのは簡単」〈前篇〉

壊すのは簡単 〈前篇〉  畑の畝のように細長く波立った雲が遠くに見える。冬の空は濃い青色をしていた。  閑静な住宅街に、唸るような重機のエンジン音が響いていた。ショベルカーのバケットが重い瓦礫を廃棄用の山に落とす度に土埃が巻き上がり、地面が揺れる。傍に立っているだけで足の裏から振動が伝わって、指先まで震えるような感覚を覚えた。  梅崎工業の五名の解体作業員たちは、さいたま市西区指扇の住宅地に建つ、木造二階建ての空き家の解体工事を行っていた。  先月末に始まった解体作業は、今日

伊岡瞬「追跡」#003

6 火災二日目 葵(承前)〈先生、何をなさってるんです——〉  電話の向こうで、新発田信のものとは違う声が聞こえた。  通話口から少し離れていて聞き取りづらいが、葵にはそれが誰の声かすぐにわかった。新発田の私設秘書、加地由伸だ。  がさごそと、もみあうような音が聞こえる。加地が受話器を取り上げようとしているらしい。 〈おやめください〉加地が冷静に、きっぱりとした口調で諫める。 〈しかし、こいつが——〉という、新発田の声が聞こえたが、尻すぼみになった。加地が取り上げたらしい。

古代エジプトの密室トリックにミイラが挑む!|『このミス』大賞受賞作・白川尚史『ファラオの密室』インタビュー

「経営者としての日々を送るなかで、心のどこかにいつも〝作家への憧れ〟がありました」  スーツに身を包んだ白川尚史さんは、そう穏やかに語り始めた。東京・赤坂の高層ビル25階に位置した、近未来を思わせるガラス張りの会議室。「GALAXY」と名付けられたこの空間は、証券ビジネスを展開するマネックスグループの本社オフィスだ。白川さんは東京大学工学部を卒業後、AIベンチャー「AppReSearch(現在は「PKSHA Technology」)」を東大の先輩と共に創業し、代表取締役に就任

荒木あかね最新ミステリー! 読み切り短篇「置き去りイヤリング」公開

 臍の三センチ下あたりにぐっと力を込め、背筋を伸ばす。頭のてっぺんをピアノ線で引き上げるようにイメージして。正しい姿勢は接客の基本だ。  三号車の扉を前に、私は一つ深呼吸をした。それは客室に入る前のルーティンだった。新鮮な空気を肺に送り込みながら、心の中で「私は完璧」と呟く。私は完璧。だからこの先に一歩でも足を踏み入れてしまえば、もう失敗は許されない。  自動扉を抜けると立ち止まり、腰から上体を折って一礼する。 「お食事とお飲み物をお持ちいたしました」  東京駅を七時ちょうど

人気ホラー系YouTuberが放つ“一度読んだら忘れられない”完全犯罪小説|やがみ『僕の殺人計画』インタビュー

 ミステリー小説を愛する敏腕編集者・立花のもとに、ある日、送り主不明の原稿が届く。どうやら小説であるらしいその原稿は次のように始まる。「このときがようやく来た。/僕はあなたを殺します。/決して誰にもバレずに。」——これは小説なのか? それとも立花に宛てられた殺人予告なのか?  YouTubeチャンネル登録者数75万人超えを誇る人気ホラークリエイターのやがみさんが11月に刊行した初の小説『僕の殺人計画』は、「究極の完全犯罪」をテーマに、編集者と「謎の殺人予告小説」の書き手の頭脳