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藤田真央『指先から旅をする』を読んで――須賀しのぶさんから、熱い感想が届きました!

 天才が感じとれる世界を、私たちは成果として仰ぎ見ることはできるけど、共有することは絶対にできないと思っていました。
 でも藤田さんの紡ぐ言葉は、彼の音楽そのもののように柔らかく豊かで、自分も美しい世界を一緒に見ているように感じられて、読んでいる間ずっと幸せでした。私は文章はリズムが命と信じているのですが、やはり素晴らしい音楽家の方の文章は凄い。しかも読書家というだけあって表現力も素晴らしくて、思わず嫉妬しました……。

藤田真央『指先から旅をする』

 どんなふうに楽譜を読み、想像し、音楽を構成していくのか。個性ある会場にあわせてどのように演奏するのか、ソロやデュオ、そしてオケでの違いといったテクニカルな面や、一見華やかだけれど過酷すぎる移動スケジュールやコンディション維持のための三種の神器といった、クラシックオタクとしてまさにそこが知りたかった! という点を惜しみなく見せてくださって、感謝しかないです。

 綺羅星のごとき音楽家たちとのエピソードも夢のようでわくわくするし、中でもコンクールで出会った音楽家たちと、その後何度もセッションをする仲間となっていく様や、音楽祭の合間にフットボールをしたりハンバーガーを食べながら音楽談義をしたりする姿に、ああそういうところはやはり同じなんだなと嬉しくなったり。

 しかし、音楽というのは本当に対話なんだなと改めて思いました。打ち合わせやリハで決めていても、本番になれば響きも違うし、トチったり調子に乗ってしまうこともある。そこを瞬時に対話でつくりなおしていくんですね。あそこまで舞台上で「喋って」いるとは思わなかった。いやすごい。
 そして音楽祭や公演先の描写がまた素晴らしいんですよね。光景や歴史、気候、光、音の響き――私たちもその場にいるかのように感じられる文章はまさに藤田さんが音楽を語る時と同じで、つまり世界は彼の中で濾過されてああいう音楽になっていくのだな……としみじみ思いました。
 写真からも文章からも藤田さんの音が聞こえてくる気がします。

 こんなに、音楽家の生身の姿と、紡ぎ出す芸術の世界をみごとに両立させた本はないのではないでしょうか?

プロフィール

須賀しのぶ
作家。1972年、埼玉県生まれ。上智大学文学部史学科卒業。1994年、「惑星童話」でコバルト・ノベル大賞の読者大賞を受賞しデビュー。2013年、『芙蓉三里』(三部作)で第12回センス・オブ・ジェンダー賞大賞、16年、『革命前夜』で第18回大藪春彦賞を、17年、『また、桜の国で』で第4回高校生直木賞を受賞。近著に『荒城に白百合ありて』『夏空白花』など。


<2023年12月6日、藤田真央初著作 刊行!>


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