《初対談》島本理生×村田沙耶香「自分の傷が癒されていく…」なぜこうも惹かれるのか?
◆20年の月日が変えたもの
——本日は「創作と変化」というテーマでお話を進めます。その前におうかがいしますが、お二人はこれまでにも交流があるそうですね。
島本 年度は違いますが、もともと村田さんと私は同じ群像新人文学賞の受賞者で、しかも二人とも優秀作だったので、出身がまったく一緒なんです。私、村田さんが受賞された時に会場に行っているんです。
村田 自分が23歳で受賞した時、選考委員の方々以外の方で初めてお会いしたプロの作家さんが島本理生さんでした。その前から作品を読んでいてすごく好きだったので嬉しくて。しかも入選作を全部読んでいらして、ひとりひとりに丁寧な感想を言ってくださって、それもすごく嬉しかったです。
島本 それからは、小説で賞を獲ると授賞式があるのでそういう場や、あとは作家飲み会でお会いしたりして。
村田 日本酒の会を作ったり、一緒に旅行したり。
島本 私は村田さんにお会いして話を聞くたびに、「ああ、村田沙耶香さんだ」って実感しています(笑)。最近だと、自分の年齢をずっと大きく間違えていた話が印象的でした。
村田 最初に自分の年齢が分からなくなったのは小学生の頃で、「もうすぐ10歳だ」って思っているうちにすっかり10歳になった気になって、誕生日に「11歳だね、ゾロ目だ」って言ったら両親が「まだ10歳だよ」って。数字にすごく弱いんだと思います。
島本さんは優しくて面倒見がよくて、何人かで飲んでいる時にひとり落ち込んでいる子がいたりすると、その子にすごく優しく声をかけているんです。島本さんの小説を読んでも言葉が真摯で誠実で、鋭くて打たれるんですけれど、普段も言いづらいこともちゃんと言う、強い優しさがある。一緒に旅行していても「私はあれが見たいから」とちょっと別行動したりとか。自分が見つめたいものを見る時間をちゃんと持っているイメージがあります。
——お二人とも作家になってほぼ20年ですが、振り返ってみてご自身の変化を感じますか。
島本 私は純文学の賞でデビューして、その後エンターテインメント系の雑誌に書くようになり、一時期は両方で書き、最終的に『ファーストラヴ』という小説で直木賞をいただいて。「これからはエンターテインメントだけ書くんだな」と思った読者も多いと思いますし、私もそう思っていたんですけれど、最近、初期作品を、作家として成長した今の自分の目線でアップデートしたいな、と思うようになって。
新作の『星のように離れて雨のように散った』が生まれた根底にも、自分が若い頃には書けなかった先をもう一回やりたい、という想いがありました。発表媒体は『別冊文藝春秋』でしたが、文体や手法は初期の頃を意識的に再現しつつ更新した形になっていると思います。
それで一区切り着いたらエンターテインメントも書きたくなって、2022年の1月からはSFを意識した小説の新連載が始まります。だから、結局、純文学とエンタメの間をループしているんですよね(笑)。どれかに絞ったほうがいいと決意した時期もありますが、最近は、この書き方が自分にはしっくりくるのかもしれないと思うようになりました。
村田 私はデビューした後に、書いても書いてもボツになる時期があって、その時は自分は小説家未満だと思っていました。その期間が終わって、『新潮』から声をかけていただいて「ひかりのあしおと」が掲載された時に、もう一回デビューさせていただいたように感じました。なので、20年ずっとバリバリ書いてきたという感覚はあまりないんです。
作風が変わったね、と言われる時もあるんですけれど、自分ではまったく変わらずただ書きたいものを書いている気分です。ただ、書き方はちょっと変わったかもしれません。デビューした頃の作品は膿んでいる自分みたいなものが原動力で、そこが強く出ていた気がするんですけれど、今は、小説自体に膿んでもらうというか。小説が勝手に腐って動いて、それを自分が書きとめる、というふうに感覚が変化しています。
島本 私のここ数年の変化としては、小説の中の関係性が変わってきたことだと思います。今まで恋愛でもなんでも、一対一の密室のような距離感を好んでいたのが、最近は人の数を物理的に増やして、複数形のコミュニケーションを愛したいと思うようになったんです。それで登場人物が増えたら、主人公が恋愛をしなくなってきました(笑)。
今まで私の小説における恋愛って、主人公が救いを求めて、神様を探しているうちに恋愛する、みたいなところがあったんですね。それが、人物が増えて救いが分散することで、だんだん恋愛の必要性が薄くなってきたんです。恋愛を書くのは好きですが、前みたいに「この人は私の神様か否か」という切迫感からは少しずつ離れ始めています。それが自分の思春期の頃の世界観から大きく変わったところかなと思います。
「#別冊文藝春秋」まで、作品の感想・ご質問をお待ちしております!