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イナダシュンスケ│スパイス、ハーブ、薬味… だけじゃない「マズ味」の話    

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第6回 マズ味は文化だ

 前回は、パクチーの「マズ味」に関するお話でした。マズ味とは、おいしくないということではなく、むしろおいしさを構成する要素です。
 マズ味が重要な食べ物は、パクチー以外にもたくさんあります。すぐ思いつくところで、葱、生姜、大葉、茗荷みょうが、といった薬味類。パクチーを初めて食べた時からおいしいと思った人が少ないように、こういった薬味類が子供の頃から好きだった人もそういないでしょう。
 記憶を辿ると僕も、葱→生姜→大葉→茗荷の順で徐々に克服していった気がします。まさに大人の階段を一歩ずつ登っていったわけですね。今となってはこれらが無い生活なんて考えられません。大方の日本人はそうでしょうし、たまにこれらが苦手な人が「自分は子供舌だから」と自嘲するのもなんだか象徴的です。
 僕もそうでしたが、最後の最後に克服したのが茗荷、という人は少なくないのではないでしょうか。「大人になって酒を飲むようになって初めておいしさがわかった」という話をよく聞きます。そもそもお酒自体が、ビールにせよウイスキーにせよワインにせよ日本酒にせよ、多かれ少なかれおしなべて何らかのマズ味が重要な要素になっていると感じます。人はお酒の味を知ることで、マズ味と仲良くなるコツを自然と身につけるのかもしれません。
 スパイスやハーブもまた、マズ味を豊富に含む食材。特にスパイスは、単体で香りを嗅いでも決して「おいしそう」な香りではないことがほとんどです。もちろん「いい匂い」ではあります。しかしそれは香水として身にまとわせたり、お香として空間に漂っていれば心地よさそうだけど、直接食欲には結びつきにくい。実際スパイスを直接口に含むと、身体が全力でそれを拒絶するレベルでマズいです。

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