ピアニスト・藤田真央 #05「わたしのプログラムづくり――理想の音を捜し求めて」
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2022年4月11日。ドイツへと旅立つ直前に、東京オペラシティ コンサートホールでのリサイタルの機会に恵まれました。
オペラシティで1月19日に行ったリサイタルの反響が良かったそうで、アンコール公演が決まったのです。
全二部構成、5曲のプログラムの中で、わたしが核に据えたかったのは、ブラームスの《主題と変奏 ニ短調 Op.18b》。
この曲は初演と変わらず第二部に据え、第一部を大きく変えてみました。
1月にはショパンとリストを弾いたところを、今回は1曲目にモーツァルト《ピアノ・ソナタ第17番 変ロ長調 K.570》、 続いて、シューベルト《3つのピアノ曲 D946》を選びました。
《ピアノ・ソナタ第17番》は、わたしが銀座・王子ホールで行っているモーツァルト・ピアノ・ソナタ全曲演奏会でもまだ演奏したことがないものです。厳格な趣きのあるブラームスと対比させるためにも、即興的で自由な曲から始めたかったのです。
主題がB-Dur(変ロ長調)のモーツァルトから、es-Moll(変ホ短調)から始まるシューベルトへと繋がる。この二つの調関係の妙に惹かれて、第一部の2曲の並びを決めました。
シューベルトは、日本で演奏されることがそこまで多くないのが残念ですね。特に交響曲を聴いてみるとよくわかるのですが、「交響曲でできることはベートーヴェンがすべてやり尽くした」と言われた当時にあって、それでも独自の新しい音楽を切り拓いた、きわめて特異な作曲家だと思います。
《3つのピアノ曲 D946》は、1828年、シューベルトが世を去る半年前に書かれた曲。楽譜は彼の死後に出版され、初版の編集者はブラームスでした。
第一曲「アレグロ・アッサイ 変ホ長調/短調 2/4拍子」は、もともとはA-B-A-C-Aというロンド形式で作られたものでした。しかし、シューベルトの遺稿を確認すると、最後のC-Aの部分の160小節に、大きなバツ印がつけられているのです。結局、ブラームスは削除せず出版したのですが、現在ではこのC-A部分を割愛して弾くのが主流になっています。わたしも以前はそうしていたのですが、今回改めてこの曲と向き合って、このパートの深い精神性と、見事な音楽性に圧倒されました。シューベルトのハーモニーはやはり天才的ですよ。セブンスと呼ばれる和音の選択など、まさにこれしかない! という絶妙なものになっている。
だからこそ、シューベルトが志向した音楽をわたしも探し当てたいなと思いましたね。たとえば第二曲は、歌曲作家としてのシューベルトの魅力に溢れていて、まるで回想をしているかのような優美なメロディが続きます。一変して第三曲では、シンフォニーのような音作りで、ハイドンの影響を感じさせるような端正な仕上がり。短い一曲一曲を細かく分析すると、作曲家の明確な意図を感じられるんです。シューベルトの思い描いたものを、十全なかたちで、この世にあらしめたいではないですか。それこそが、後世のピアノ弾きたるわたしの、果たせる役割なのではないかと思ってやっております。
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