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宇野碧|嵐の日に出逢ったものは

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 初対面の人との会話は、あまり得意ではない。
 相手の価値観や嗜好しこうを何も知らない状態から始めるコミュニケーションは、私には高度すぎる。まずフレンドリーのさじ加減がわからない。もう少し親しげにした方がいいのか、距離感を保った方がいいのか。
 どこまで自分の意見を述べればいいのか、これは踏み込みすぎた質問にあたるのか、かといって形式的な質問ばかりでもただ間を持たせるためだけに話しているみたいだし、等々。いつも考え惑いながら話す。「話す」「聞く」のバランスも難しい。いつ話を切り上げたらいいのかも、よくわからない。長く話しすぎたら迷惑かもしれないし、早く打ち切りすぎても失礼かもしれない。逆に、早く切り上げたいのになかなか逃げられないときもある。
 そんな私が、一切惑うことなく、初めて会う異国の人達とただひたすらときを忘れて話していた日々があった。

 三年前まで、和歌山の山奥で、古民家を改装した一日一組限定の宿をやっていた。お客さんの大半は外国人旅行者で、英語圏の方が多かったけれど、スイス、ポーランド、ドイツ、スペイン、フランス、などなど、国籍もルーツも様々な人がいた。私の宿がアンテナにひっかかり、へんな場所までわざわざ足を運んでくれるお客さんたちは、自然とフィーリングが合う人ばかりになる。友達候補引き寄せ装置のようなものだった。
 お客さんに書いてもらう宿帳に、住所やメールアドレスに加えて「好きな本・映画・音楽」という項を設けていたので、自然とそれらについて、とりわけ本について話すことが多かった。

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