話題沸騰! なぜ『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』は生まれたのか? 読売文学賞を射止めた川本直、徹底インタビュー!
アメリカ文学史上、最もスキャンダラスな作家、ジュリアン・バトラー。同性同士の性交が犯罪とされていた一九五〇年代に、男性同士の恋愛を描いた作品を次々と発表し、カルト的な人気を誇った。女装を好み、過激な発言で時代の寵児となる一方、その私生活はずっと謎に包まれてきた。
クィア文学の礎を築き、〈二十世紀のオスカー・ワイルド〉とまで評されたジュリアンだが、我々は彼の作品を一作たりとも読むことができない。なぜならジュリアンとは、川本直氏が生み出した架空の存在だからだ。
『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』は、ジュリアンの長年の恋人で、小説の共作者でもあったジョージによる回想録の邦訳という形式をとった作品だ。ジュリアンの信奉者だと語る訳者「川本直」による序文とあとがき、そして巻末に付された膨大な参考文献リストに至るまで、虚実が入り乱れた緻密な仕掛けに驚かされる。
本作で小説家デビューを果たした川本直さんは、「完成までに十年の期間を要しました。女装をしたり、共依存のような恋愛に溺れたりと、今までの自分の経験もすべて溶かし込んでいます」と語る。
読書好きの両親のもとで、古今東西の書物に囲まれて育った少年時代。中学校に上がると、家父長的な家庭の空気に息苦しさを感じ、孤独感から貪るように数多の物語に耽溺した。異性だけではなく、同性への恋心を自覚したのもこの頃だ。
「日本ではトランスジェンダーという概念すら一般的でなかった時代です。自分のセクシュアリティにまだ名前がつけられなかった当時の私にとって、戦後アメリカ文学で描かれている多様な性の在り方が、自分を形づくるための手がかりの一つでした」
中でも夢中になったのが、十五歳のときに出会ったゴア・ヴィダルだ。六〇年代にはトルーマン・カポーティと人気を二分した作家で、アメリカ文学において初めて同性愛を肯定的に扱った人物としても知られる。
川本さんは、深い教養と大人の悪意に満ちたヴィダルの小説に魅せられ、彼を心の師と仰ぐようになった。
2011年には「ヴィダルを日本に紹介することこそ自分の使命」だと、インタビュー敢行を決意。世界中を旅するヴィダルの行方を探索するため移住先のイタリアを縦断し、やっとのことでロサンゼルスでの面会までこぎつけた。その顚末を記した「ゴア・ヴィダル会見記」を文芸誌『新潮』に発表し、キャリアをスタートさせる。その後も批評家として活動の幅を広げ、一四年には女装の世界を丹念に取材したノンフィクション『「男の娘」たち』も刊行したが、常に小説執筆へのやみ難い思いと闘っていたという。
「#別冊文藝春秋」まで、作品の感想・ご質問をお待ちしております!