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『淀川八景』(藤野恵美・著)の装画が完成するまで【テーマソングリスト付き!】

WEB別冊文藝春秋

大阪生まれ・大阪育ちの小説家が
大阪人の悲喜こもごもを描いた短篇集『淀川八景』。
『別冊文藝春秋』からうまれた八本の作品が、このたび
美しい文庫になりました。
装画家・草野碧さんに、文庫装画の制作プロセスを
教えていただきました!


「人生、山あり谷あり。川の流れみたいに生きていくしかないんやで。」

『淀川八景』所収「自由の代償」より

 大阪弁でこう言われたら、なんだか肩の力がぬけて妙に納得させられてしまいます。

 日々いろんな経験をしていると、うっかり自分だけが大変だと思いがちですが、「みんなそれぞれにドラマがあって頑張っているんだなぁ……」と、読み終わったとき、以前より少し視野が広がって周囲の人を身近に感じられるような、あたたかい短篇集でした。

『淀川八景』あらすじ
陰惨な家庭をサバイブした姉妹、妻から逃れるように淀川縁を歩く夫、気儘に暮らす個人投資家――大阪で今まさに息づく、八つの物語。

『淀川八景』の文庫表紙は、この大阪人のあたたかみと、人生山あり谷ありの中から見出す希望を表現したいと思い、制作しました。
 私は装画を描く際に、物語のイメージに合う楽曲をセレクトして聴いています。
 今回は表紙ができるまでのプロセスと共に『淀川八景』の装画制作に使用した楽曲リストをご紹介します。

打ち合わせ

 最初に編集者の加藤はるかさん、デザイナーの野中深雪さんと3人でZoom打合せをしました。
 大阪が舞台だとわかるように、梅田スカイビル、淀川、空の風景の中に、人や犬を印象的に入れるイメージで話がまとまりました。

 私の絵は具象的で資料集めがとても大切となりますが、今回は舞台が大阪なので撮りに行けなくてどうしようかなぁと思っていたところ、なんと! 大阪在住の著者の藤野恵美さんがお写真を撮影してくださることになりました!

▼藤野さんからお写真と共にいただいたリクエスト
・大阪アピールよりは『物語を感じさせる』ような、思わず連れて帰りたくなる『犬』や、郷愁を呼び覚ます『川辺』のイメージ

 打合せと藤野さんのリクエスト両方に『犬』というキーワードが入っていて、とても強い思い入れを感じました。
 改めて本を読むと「黒い犬」というそのもののタイトルがあり、この物語に出てくる野良犬と女性をイメージして描くことにしました。


 こちらをふまえて『魅力的な犬』『郷愁の川辺』というキーワードを大切にしながら、物語を感じさせるようなラフを2点作成いたしました。


提出したカラーラフ2点

・ラフ1 女性と犬

『淀川八景』の一篇の「黒い犬」という物語からイメージ。
 恐る恐る半分、触りたい半分の気持ちで手を伸ばす女性と、その気持ちに応えるようにそばに寄る野良犬。
 淀川の朝焼けを背景に、野良犬と女性が心を通わせるイメージです。

・ラフ2 黒い犬

 誰にも飼われていない自由な野良犬が一匹で強く生きていくイメージ。
イエローのワントーンで、より郷愁を強く感じられるようにしました。

 こちらのラフでデザインを仮組みしてくださったものを藤野さんに見ていただきました。
 光栄なことにどれが良いか悩まれていて、数日後にある大学の授業での、学生さんたちからの意見も踏まえ改めてお返事をいただくことになりました。(なんて楽しそうな講義なんでしょう!)

▼仮組デザインされたラフ

 アンケート結果は
 B)女性と犬 が圧倒的に人気でした。
 青空と朝日の明るさが希望を感じさせる雰囲気で「手に取ってもらいやすそう」という意見が多かったそうです。
 C)が次に人気でしたが、夕日はちょっと暗い感じがするというご意見も。

 ということで、B)女性と犬 のラフで本データを作成することに決定しました。(若いフレッシュなご意見に感謝!)

本データ作成

 藤野さんが撮影してくださった写真や、私が撮影した写真をもとに、パーツごとにアクリルガッシュで描いてスキャン後、Photoshopで合成して絵を作ります。
 私はアナログの質感がとても好きなのですが、PCではブラシの質感が再現できません。
 しかしアナログのみだと描いた後に微調整ができないので、パーツをアクリルガッシュで描いてPCで仕上げるこの手法に辿りつきました。

 PC上でススキや犬の毛のふさふさ感や、水面のキラキラ、ビルの窓などディテールをつめていきます。

 帯がくる下部分は主要なモチーフを避け、トリミングできるよう周囲の余白部分を大きめに描きます。

 淀川の朝焼けを背景に、哀しいことの中にも希望の光を見出せるような色合いに仕上げました。

完成

 文字の角に丸みがつき、ラフの時点からブラッシュアップされたデザインが完成しました!
 女性と犬が浮き上がるような白抜きのタイトルや、アルファベットの飾り文字もおしゃれな美しい表紙です。

 著者の藤野さんにも喜んでいただけてとても嬉しかったです!

『淀川八景』用イメージ楽曲

 ここで、私の『淀川八景』用のプレイリストをご紹介します。

 お仕事によっては、無音で仕上げることもありますが、装画の場合は物語が主役なので、音楽がある方がその感情を絵に反映させられる気がします。
 音楽と共に小説の世界観を膨らませて絵を描いていると、まるで物語の中に入ったような気分になれてとても楽しいのです。

 今回選んだのは、静かな郷愁の中にあたたかさを感じるもの、哀しみと希望が共存するような曲たちです。

『淀川八景』用イメージ楽曲

▲クリックで大きくなります

「これはちょっと違うんだよなー……。むむ! これはぴったりではないか!」と、えらそうに勝手に曲をセレクトして絵を描くのが私の密かな楽しみです(笑)。

終わりに

 今回装丁のお仕事がきっかけで『淀川八景』という本に出会うことができました。
 この物語は、どの話にも刺さる部分があり、一篇を読み終えるごとに本を閉じて余韻に浸りたくなりました。

「人生、山あり谷あり。川の流れみたいに生きていくしかないんやで。」
 忙しい毎日ですが、少し手を止めて物語の中の穏やかな時間に包まれたいと思います。
(「婚活バーベキュー」の主人公の最後の言葉に激しく同意でした)


『淀川八景』(藤野恵美・著、草野碧・装画/文藝春秋刊)
大阪人の悲喜こもごもを見つめながら、今日も流れる淀川。陰惨な家庭を生き延びた姉妹、弟の野球を眺める少女、婚活バーベキューにいそしむ男女、映画を撮る高校生、自由を謳歌する個人投資家――全員が割り切れない心を抱えて水辺に佇む。瑞々しい人生のスケッチから今の大阪が浮かび上がってくる短篇集。
解説・北上次郎

■ プロフィール
● 草野碧(くさの・みどり)
1981年富山県生まれ。書籍の装画や挿絵、広告などを手がける。装画に『月まで三キロ』(伊与原新・著/新潮社)、『天国までの百マイル[新装版]』(浅田次郎・著/朝日文庫)、『Anne d’Avonlea(アンの青春)』(L. M. Montgomery著 、Monsieur Toussaint Louverture(フランス)刊)ほか多数。

● 藤野恵美(ふじの・めぐみ)
1978年大阪府生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。2003年「ねこまた妖怪伝』で第2回ジュニア冒険小説大賞を受賞し、翌年に同作でデビュー。以降、児童文学のみならず幅広いジャンルで活躍する。
現在、大阪芸術大学客員准教授。

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