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『八秒で跳べ』刊行決定!――『探偵はぼっちじゃない』から5年、大学生になった坪田侑也さんにインタビュー

 子供の頃からはやみねかおる作品に親しみ、中学3年時の夏休みの課題で書き上げた『探偵はぼっちじゃない』で、ボイルドエッグズ新人賞を史上最年少受賞。同作品で単行本デビューを果たした坪田つぼた侑也ゆうやさんが、5年ぶりの新作となる八秒で跳べを、24年2月13日に文藝春秋より上梓する。待望の新刊は高校のバレーボール部を舞台とした、瑞々しさあふれる等身大の青春小説。その魅力と、現在、慶應義塾大学医学部の3年生になった著者の素顔に迫った――。

〈インタビュー:瀧井朝世〉

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――デビュー作『探偵はぼっちじゃない』の文庫の解説で、第2作を「信じて待ちたい」と書いてから、ずっと新作を待っていました。本当にお久しぶりですが、この5年間は何をされていたのでしょうか。

坪田 受賞作の単行本が出たのが高校1年生の終わりで、当時の目標は、1年に一冊ずつ書き上げるということで、準備もすぐにしていました。ただ、なかなか思うようなものが書けないうちに、目標が「高校生のうちに一冊仕上げる」を目指そうとなって、それも高校3年生後半になると、大学進学に向けた勉強に専念しなければならず、大学生になってからようやく本格的に執筆に取り組めるようになりました。その間、ずっと小説のことを考えて、四苦八苦していた感じです。

――現在は医学部3年生ということで、めちゃくちゃ忙しそうなイメージがあります。

坪田 試験前は特に忙しいですし、とにかく勉強量は多いです。ただ、医学部というのは国家試験に合格して医者になるというレールが決まっているので、あまり余計なことを考えなくてもいい。たとえば普通に文系の学部の大学生だったら、就職活動のことをいろいろ考えなければいけない時期だと思うんですけど、そういうプレッシャーもなく、勉強以外では小説に打ち込める環境です。

居場所を失って考えた

――今回、なぜバレーボールを題材にされたのでしょう。

坪田 バレーについては、自分が中学でバレー部に入って以来、ずっと書きたかったんです。理由ははっきり分からないんですが、特に中学当時から身長が高い方で、試合にも出ていたけれど、自分より背の低いチームメイトや相手チームの選手に技術では劣る。そのことに悔しさとかもどかしさとか、さまざまな複雑な感情を抱いていたので、それを書きたいと思っていたんじゃないかと思います。

――高校2年生の主人公・宮下景は大会前日に怪我をしてしまって、彼が試合に出られなくなるところから本作ははじまります。部活もの、青春小説としてはずいぶん異色だと感じました。

坪田 ふつうの青春部活ものにはしたくないな、という心づもりがあったのは確かです。さらに大きかったのは、僕自身が高校1年生時に作中の景と同じように、試合中、相手の足を踏んで捻挫してしまった経験があるんです。この時まではレギュラーで試合に出ていたんですけれど、ひと月くらい練習に参加できず、戻った時にはもう僕の居場所がなくなっていて、ということを経験しました。

 デビュー作の主人公が男子中学生で、かなり自分に近い存在だったので、次は違うものにした方がいいんじゃないかとか、自分自身のことばかりを書いていたら、あまりうまい書き手になれないんじゃないかとか、当時は考えていたんですが、自分から離れたものを書こうとすればするほど書きづらさに繫がる。悩んでいる途中、もう自分の話のつもりで書いてしまってもいいんじゃないか、と吹っ切れたところで今の形になりました。

――『八秒で跳べ』では、景が怪我をする前夜、学校のフェンスを乗り越えようとしていた不思議な女の子と出会い、その後、二人が再会したことによって起こる化学反応が読みどころですよね。

坪田 正直、あまり恋愛ものにしたくなかったというか、ふつうに主人公が女子高生と出会って恋に落ちるみたいな話にはしたくなかったというのはあります。技量がないからどうしても陳腐になりそうですし。そこで景が今まで関わったことのないタイプの人間と出会い、相互に影響し合って変化していくという方に重点を置く形になりました。

 相手の真島ましまあやが実は漫画を描くことに打ち込んでいたという設定は、これもいろいろ考えた結果、やっぱり自分と重ねあわせてもいいんじゃないかと考えました。真島綾が新人賞を獲って描けなくなってしまったというのは、完全に自分と同じですが、小説ではあんまりだし、脚本というのも何か違う。そこで漫画という設定にしました。

 綾の創作に打ち込む姿勢は、自分の創作体験が反映されているところもずいぶんあって、「深海に潜っていく」ように描けたらというのは、僕にとっても理想。でも、かつてはできていたのに、今は潜り方が分からなくなっているという感覚は、自分と非常に重なります。周りから見ていると心配になるし、実際に作中でも心配する友人が出てくるけど、その本心にはなかなか周りが気づけない、というところも、自分の経験を投影した形になっているかもしれません。

好きなことに打ち込みたい

――前作も今作も、「将来に結びつかないことに夢中になってはいけないのか」「好きだけれど結果が出ないことは諦めなければいけないのか」といった問いかけが、作品全体に切実に込められている気がしました。

坪田 僕自身は「今が楽しいからやりたいことをやる」という考え方を実はできないタイプで、実際、こんなことをやって小説を書くのに役に立つんだろうかと悩んでしまうこともかなりありました。大学に入った時も、四つ上の兄が医学部体育会のバレー部に所属していた自然な流れで、僕もバレー部に所属したんですが、コロナで練習も試合もままならない。

 こんなことをやっていてもなんの役にも立たないなんて思って、今楽しいと思う感情に素直になれない自分が嫌でした。だからこそ小説でもバレーボールでも、自分が夢中になっていることを肯定する形で書きたかったし、何か意味がなくても好きなことに打ち込むということが、どうしても書きたかったポイントなんだと改めて気が付きました。

 今は、大学のバレーにもすごく楽しんで打ち込めているんですが、高校時代は単行本デビューした時点で部活を辞めてしまったので、そうするとどうしても帰宅部の子と仲良くなる(笑)。その中には部活を途中で辞めてしまった子たちもいて、彼らは部活に嫌悪感を抱いていたりもしました。そういう感情も切り捨てたくはなかったし、好きだから、楽しいからバレーをする、その上で勝つという姿勢を描くべく、その役割を本作ではチーム内のエースの尾久おく遊晴ゆうせいに託して、対比としてライバル校のセッターである和泉いずみが生まれました。

――バレーボールのアクションは動きが多く、そのシーンを書くのは難しくなかったですか。

坪田 映像としてかなり鮮明に浮かんで見えるので難しくはなかったです。逆に鮮明なあまり書きすぎてしまったようで、書き上げてからだいぶ削りました。実はインターハイ予選でもいい線まで勝ち上がったチームという設定なので、本当だったら攻撃にはコンビネーションももっとあるはずなんですが、専門用語ばかり出てきては読者に分からなくなってしまう。バレーに詳しい人から見ると「単調な攻撃しかしていないじゃないか!」と思われそうで心配ですが(笑)、そのためにも遊晴のような大エースが必要で、彼の存在にはここでも助けられました。

――今後はどういった作品を書かれる予定ですか。

坪田 『八秒で跳べ』を書き上げてみて、あまり背伸びをしない範囲、自分の書ける範囲でも、読者に面白がってもらえる要素があることに気が付いたのが、いちばん大きな収穫でした。これまで世に出ないまでも完成させた作品はいくつかありますが、『八秒で跳べ』は盛り込み過ぎず、自信をもって書き上げたと言えます。その達成感の種類は今までと違っていて、完成した日には友人とご飯に行って、そのまま彼の家でオールして、お酒も飲んで(笑)。朝帰りした時の気分の晴れやかさは忘れられません。

 自分の世界に近いものでも面白いものが書けることに今回気が付いたので、次は医学生の小説を書きたいと考えています。たとえば医学部では実は七、八割くらいの学生が部活に入ってスポーツばかりやっているのですが、そのことだけでも驚かれたり(笑)。さらにこれまでの主人公たちはどこか内省的だったので、次の作品では葛藤や悩みはもちろん書き込みつつ、もっと楽しめるエンタメ要素を採り入れたいですね。

撮影:深野未季


プロフィール

坪田侑也(つぼた・ゆうや)
 2002年、東京都生まれ。18年、15歳の時に書いた『探偵はぼっちじゃない』で第21回ボイルドエッグズ新人賞を受賞し、翌年KADOKAWAより出版された。中学、高校時代はバレー部に所属。現在は慶應義塾大学医学部在学中。

『八秒で跳べ』(2024年2月13日発売)


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