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「創作大賞2023」決定! 「別冊文藝春秋賞」は秋谷りんこさんに贈呈します

 2023年4月25日〜7月17日に開催された日本最大級の投稿コンテスト「創作大賞2023」。

 エンタメ系電子小説誌『別冊文藝春秋』及び「WEB別冊文藝春秋」は、〈お仕事ミステリー小説〉に参加いたしました。
 どれも読み応えのある作品ばかりで、編集部一同たいへん楽しく拝読しました!
 たくさんのご応募、誠にありがとうございました。

『別冊文藝春秋』は、〈お仕事小説部門〉〈ミステリー小説部門〉の作品を拝読し、最終候補四作をセレクトしました。

・「殺人小説の書き方」古池こいけねじ 
・「庭を造る」栗原くりはらちひろ 
・「ナースの卯月うづきえるもの」秋谷あきやりんこ 
・「夜間非行」神原月人かんばらつきひと(月と梟出版)

 特別審査員の新川帆立しんかわほたてさんに、この四作を読んで頂き、新川さんと編集部で選考会を実施。

 白熱した議論の末、「別冊文藝春秋賞」は、「ナースの卯月に視えるもの」(秋谷りんこ)に決定致しました。

 そして、「庭を造る」(栗原ちひろ)、「殺人小説の書き方」(古池ねじ)を入選に推薦いたしました。

 こちらの四作品すべてに、新川さんより講評を頂戴いたしましたので、全体についての総評とともに掲載いたします。

<総評>

新川帆立さん・評

 投稿者の皆さん、お疲れ様です。
 まずは何より、小説を書き上げて投稿した自分自身を褒めたたえてください。創作の楽しさ、創作で人とつながる楽しさにどっぷり浸かっていただき、今後も是非、創作を続けてほしいと切に願います。
  拝読した四作品はどれも大変面白かったです。どの作品にもきらりと光る才能やセンスがあり、私自身、多くを学ばせていただきました。高い完成度を備えた秋谷りんこさんの「ナースの卯月に視えるもの」を「別冊文藝春秋賞」に推しましたが、それ以外の作品についても大いに可能性を感じました。
「落選した」「ダメだった」と捉えずに、今後のさらなる飛躍のために役立てていただけると嬉しいです。

編集部・評

〈お仕事小説部門〉と〈ミステリー小説部門〉の作品を拝読。読み始めるなり最後まで目が離せなかったものから、しみじみと味わい深い筆が心地よく、この方とさらなる高みを目指したいと思わされたものまで、実に楽しい選考でした。最終的に四作をセレクト、特別審査員・新川帆立さんと議論を重ね、「ナースの卯月に視えるもの」を〈別冊文藝春秋賞〉に、「庭を造る」と「殺人小説の書き方」を〈入選〉に推薦しました。


<別冊文藝春秋賞>

「ナースの卯月に視えるもの」秋谷りんこ

新川帆立さん・評

「もうすぐ死ぬ人の思い残しが視える主人公が、その思い残し解消のために謎を解く」という設定が秀逸で素晴らしい。強いフックになるし、謎解きの動機としても共感しやすい。また、専門知識が存分に活かされている点もお仕事小説として理想的だと思った。文章が非常に読みやすく、静かな文体が作品に合っている。各話とも希望の持てる読み味になっている点もよい。拝読した四作の中でもっとも完成度が高く、お仕事小説の王道を行く作品だったことから、「別冊文藝春秋賞」に推した。
 
 以上が客観的な選考コメントだが、より主観的な意見として、作品に貫かれている優しくてまっとうな筆致が際立って素晴らしいと感じた。読者さんに愛されるタイプの小説をまっすぐ書けるのは貴重な資質なので、どうかこのまま、誠実に丁寧に書き続けて欲しい。
 
 なお今後に向けて作品に手を入れる場合、読者に対する情報提供を意識すると、よりよくなると思う。
 本作の一番のキーポイント(美点)は、「舞台が長期療養型病棟である」ということ。慢性期の患者が多く、希望が持ちづらく停滞した雰囲気のある環境だからこそ、主人公の特殊能力が「希望を与える道具」として際立つ。長期療養型病棟がどういう場所なのか(患者は何人くらいなのか、何カ月~何年くらい入院する人が多いのか、何割くらいの人が病院で亡くなるのか等の基本情報)をなるべく早い段階で説明したほうがよい。また、主人公の基本情報(性別、年齢、看護師歴等)もなるべく早い段階で提示する。さらに、専門用語が出てきたときに、その解説、説明を一行ずつだけでも入れてあげるとより親切に感じる。
 
 そのほか、設定を徹底するとよりよくなると感じた。
 オカルト要素、ファンタジー要素のある設定の場合は特に、当初決めた設定が最後までぶれないように気をつける必要がある。そうでないと、読者はハシゴを外された気分になるし、「何でもアリじゃん」ということになり、物語が緩くなる(設定が本来的に内包している情緒が薄れてしまう)。本作の場合、ラストで明かされる千波の真相について、もとの設定で説明可能なものにするとよりよいと思った。

編集部・評

 看護師・卯月咲笑には、死にゆく患者の「思い残し」が見える――という設定がまず絶妙です。患者の枕元に立つ「思い残し」(それは少女だったり若い男性だったりする)が抱える事情や事件を推測し、解決に向けて奮闘するというストーリーラインとキャラクターの魅力、文体の味わい、すべてが有機的に結びついているのもいい。
 看護師の日常業務や医療従事者の「生態」も面白く、お仕事ミステリーのお手本のようだと思いました。



「庭を造る」栗原ちひろ 

新川帆立さん・評

 何よりも、文章のリズムがよいことに感銘を受けた。間の取り方がうまく、読者が読むスピードと作中時間をきちんとリンクさせてくれるから、臨場感や没入感が出て読みやすい。一文の長さや改行で、読者の視線が動く速さをきちんとコントロールしている。圧倒的な長所であり、あえてあけすけな言葉でいえば「ベストセラーになる文体」だと思った(が、それもそのはず。選考後に知ったことだが、すでにご活躍中のプロ作家さんでした)。
 話の展開にサプライズを用意しており、読者を楽しませようという意識がしっかりあるのも素晴らしい。一つ一つの描写で、人物の表情や状況をどう書けば分かりやすいか考えて工夫していることも好感が持てる。
 また、お仕事小説としては、本人の職業的意識と人生の相互作用がきちんと描かれていて、職業をもったキャラクターの描き方として適切かつ秀逸だと思った。
 
 今後は演出力にさらに磨きをかけて、読者の心を徹底的にコントロールすることを意識するとよりよくなると思う。
 例えば本作では、「この老婆は何者?」という謎を目くらましとして使いながら、最終的に「実は弟(そして語り部)のほうがヤバかった」というサプライズを用意している。
 しかし、老婆に比して弟の登場シーンの分量が多いので、「作者にとって弟が大事なんだな。後半で弟が意味を持つんだな」と読者が予想してしまう。物語上、老婆はかなり不気味な存在のはずだから、その不気味さをきちんと描写する(そうでないと、読者に「この老婆は別にいっか」と流されて、ミスリードにならない)。一方で、弟の描写はもう少し圧縮したほうが作者の意図を悟られにくいと思う。

「殺人小説の書き方」古池ねじ 

新川帆立さん・評

 モノローグ(地の文の独白)がうまく、読ませる力がある。微妙な心の動きをきっちり捉えて言語化できているのもよい。「普通の心の動き」にとどまらず、認知や思考の軸が少しズレた人の内面世界を一人称で描けている点が素晴らしい。
 さらに、一つ一つの謎に対するアンサーの意外さ、ミステリー的な結末の置き方にセンスを感じた。なかなか思いつかない意外な展開をふんだんに盛り込み、読者を楽しませようとしている点がよかった。
 人間の内面を書く力と、意外な展開を用意する力がそれぞれあるので、一風変わった思考をする人が世間の常識とは少しずつズレた動きをして、普通では通らないルートをたどって、最終的にとんでもないところに行きつくような話を書くと、他の書き手の追随を許さないクオリティになるのではないかと感じた。ミステリーにとどまらず、サスペンス、ノワール、ピカレスク、ハードボイルド等、様々なジャンルで活躍できると思う。
 
 今後は、何を書くか以上にどう書くかを意識するとよりよくなると思った。
 本作では特に、現代パートであまり動きがなく、事件の多くは回想部分で語られる点が(用意されているストーリー展開自体は面白いぶん)もったいないと感じた。最終的に行きつく先(現代パート)を読んだうえで回想が始まると、読者の多くは興味を維持しにくい。ミステリーにこだわりがないならば、時系列を前後させずに、前から後ろへ順々に進むサスペンス(モノローグ、語りの力を活かすなら、例えば日記形式など)として再構成すると、意外性のあるストーリーがより活きると思った。
 またキャラクターの性格も、別のキャラクターの語りで「あの子はこういう子」と説明するのではなく、本人の台詞と動作で「その人がどんな人か」を伝えたほうがより説得力を持って多くの人に届くと思う。

「夜間非行」神原月人(月と梟出版)

新川帆立さん・評

 獣医師関連のパートがずば抜けて面白かった。獣医師国家試験に落ち続ける主人公、猛禽狂いの父、主人公に想いを寄せる先輩獣医師等、キャラクターがとてもよい。軍鶏料理屋の叔父が出てきたときには面白すぎて声が出た。
 それぞれにキャラクターは際立っているが、テンプレ的なものではなく、圧倒的なセンスを感じた。特に、「ハゲワシを愛するあまり、息子が獣医師試験に落ちても気にしない父親」という人物造形など、普通はなかなか書けないと思う(マジですごい)。主人公がきちんとカッコよく、好感度高く描けているのも大変よい。
 
 ただ、税務調査(&仮想通貨)&ミステリーのパートと、獣医師パートの相性がよくないようにも思う。作者の創作意図と異なるかもしれないし、もはやただの個人的願望だが、税務調査(&仮想通貨)&ミステリーの部分は脇において、獣医師モノとして完成した作品を読みたい。
 作中で提示される「幼い頃、父が『悪魔』と責められていた。なぜか?」という謎は、大変よい謎だと思う。私がこの作品を書くとしたら、父親の謎を中心に据えて、獣医師のお仕事小説として連作短編的に進行させる。主人公が各話で少しずつ謎を解き、次第に父との心理的距離が縮まり、最後に父(と母)の秘密にたどり着く構成にするとピタリとはまりそうだと思った。


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