YouTuber・コウイチ「9月の日記」
9月の日記
9月4日
今日から日記を付けてみることにした。理由は数年後に振り返ってみたら何気ない日常でも面白く感じるかもしれないと思ったからだ。過去の記憶を振り返った時に、何が起きたのかまでは思い出せるが、その時に何を思ったのかまでは思い出せない。だから毎日細かく書き記すことで感情というものを記録したいのだ。他の理由の一つとして何かを続けるという成功体験を手に入れたかったからだ。自分は生きてきた中で何か一つのことを継続するということをできたためしがない。強いて言えば歯磨きとシャワーくらいだろう。小学生の頃、朝の全校集会で校長が「継続は力なり」と言っていたのを思い出す。大人の今になってからそれを実行するのは手遅れなのかもしれないが、自分はこの日記を続けることでその力というやつを手に入れたい。
最近はYouTubeで成功者にインタビューをするチャンネルをよく見ている。5年前にインフルエンサーのマネジメント会社「シャインズ」を立ち上げた早森社長の回があった。その社長は朝にランニング、夜にサウナという生活を何年も続けているらしい。やはり成功者は毎日ストイックに何かを継続しているものなのだ。自分も何かを長く続けていれば成功へと近づけるかもしれない。そんな希望を持って書店へ行き、このノートとボールペンを買ったというわけだ。ノートを買うのなんて学生の時ぶりだ。大学を卒業してからもう7年になるが、今の学生はまだノートを使っていたりするのだろうか。現代はタブレットで板書をするというのがデフォなのかもしれない。今年入社したばかりの佐藤さんに今度聞いてみようと思う。
今日は会社帰りにノートとペンを買い、スーパーで中華丼弁当を買って1日が終わった。この後は風呂に入って寝るだけだ。なんだか今の自分はエネルギーに満ち溢れている気がする。自分がここまで文字を書けるとは思わなかった。久しぶりに書いたせいか手の付け根が少し痛む。なんだか明日は新鮮な気持ちで目が覚めそうだ。
9月7日
3日ぶりの日記になってしまった。残業で疲れていたから仕方がないと自分に言い聞かせている。仕事と日記のどちらを優先するかと聞かれれば仕事に決まっているだろう。早森社長もきっと仕事が忙しい時はランニングもサウナも休んでいるに違いない。とにかく2日間で何があったのかを一気に書いてしまおう。といってもそれは代わり映えのしない2日間だ。今日を含めると3日間か。朝6時半に起きて歯を磨き、顔を洗って自転車で出社。20時に退勤して飯を食べて寝る。それだけだ。一昨日は唐揚げ弁当を食べて、昨日と今日は中華丼弁当を食べた。今日は少し疲れたのでここまでにしようと思う。隣の部屋のテレビの音が大きくてうるさい。壁ドンをしてもいいが、どんな奴が住んでいるのかもわからないのでもう少し様子見したほうがよさそうだ。イヤホンを付けて寝る。おやすみ。
9月8日
今日はいつものように出勤して17時に退勤した。華金ということもあり、居酒屋で発散でもしようかと思ったが思い留まる。居酒屋に向かう足を止めて俺が向かったのは書店だ。そこでビジネス書を1冊購入した。行動力が成功へ近づく第一歩といった内容の本だ。目次を見ただけで今の自分が買うべき本であることがわかった。まだ第1章までしか読めていないが、成功者に共通しているのは自己投資を怠らないということだと書いてあった。居酒屋に行く足を止めて本を買うという選択肢を取った自分の行動は自己投資そのものだ。ページを捲る手が止まらなかった。今まで読書という習慣がなかった自分が、ここまで集中して本を読むことができるのは意外だった。自分の隠された才能に気づいた1日でもある。明日はもっとアップデートされた自分が待っている。日々成長。
9月9日
3日連続で日記を書いている。三日坊主という言葉が存在するが、自分はそれには当てはまらなかったようだ。確実に日々成長していることを実感する。今日は思い切って5時半に起床しランニングをしてきた。朝の澄んだ空気の中で走るのがこんなに気持ちのいいものだとは思わなかった。思い返せば小学生の頃に一時期、早起きをして近所のゴミ拾いのボランティアをしたことがある。外の空気を吸っていたらそんな記憶が思い返された。匂いというのは記憶を引き戻す作用があるのかもしれない。これをもっと詳しく研究して論文にすればノーベル賞も夢じゃないかもしれない。早く起きた弊害なのかまだ10時なのに既に眠くなっている。今日はスーパーでチキン南蛮弁当を買って食べた。レンジで温めすぎたのか容器の端が少し溶けていた。この溶けた成分が料理に混じってないことを祈る。もし日記がここで終わっているのだとしたら、察していただきたい。これが遺書にならないことを祈る。
9月10日
今はまだ会社で昼休憩中だが、日記へのモチベーションが高すぎて既に書いてしまっている。朝通勤中に思ったことを書こう。通勤中のスーツを着た人たちを見て少しゾッとした。この人たちは何のために働いて何のために生きているんだろうと思った。皆顔が死んでいるように見えた。朝起きたら会社に行って、仕事を終えたら帰って寝るという行為を何年も続けているのだろう。自分は絶対にこうならないようにしようと固く誓った。行動さえすればそれはできるはずだ。あの通勤ゾンビたちは行動せずに敷かれたレールの上を進み続けた結果出来上がったのだ。自分は早く気づけて良かった。昼はクリームデニッシュを買って食べた。
9月10日
本日2回目の日記だ。なぜ2回目なのかというと、退勤してからサウナに行ったからだ。これを書かないわけにはいかないだろう。銭湯に行くのは久しぶりだった。ネットで見たサウナの入り方を試してみることにした。サウナの後に水風呂に入るのが気持ち良いと書かれていた。試しにやってみたがダメだった。水が冷たすぎて膝まで入るので限界だった。常連っぽい人たちが続々と肩まで浸かっているのを見て驚いた。正気とは思えない。電気風呂というのがあったので入ってみたがあれもダメだった。腕が痙攣して命の危険を感じた。銭湯というのはおかしい。
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