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衝撃のラストが待ち受ける、恋愛リアリティーショー×孤島ミステリ!|中村あき『好きです、死んでください』インタビュー

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 無人島での恋愛リアリティーショーの撮影中、人気女優が殺された。しかも密室で——。
『好きです、死んでください』というインパクトのあるタイトルと、儚げな女性の装画が目を引く本書は、孤島で起きた連続殺人の謎を追うミステリ小説だ。
 著者の中村なかむらあきさんは、2013年に星海せいかい社FICTIONS新人賞を受賞しデビュー。21年に『チェス喫茶フィアンケットの迷局集』で第3回双葉文庫ルーキー大賞を受賞し、本作が初の単行本となる。

「デビュー当時は、自分と同じような本格ミステリファンに刺さる作品を書きたいと思っていました。しかし『チェス喫茶フィアンケットの迷局集』を書いた頃から、本格ミステリという土俵にはこだわりつつ、そこに馴染みのない人にも面白さが伝わるものを書きたい、ミステリの間口を広げたいと考えるようになりました」

 いくつかプロットを考えるなかで至ったのが、恋愛リアリティーショーという舞台だった。

「もともと、こういったジャンルの番組を好んで見ていたわけではないんです。学生の頃は『あいのり』が流行っていましたが、あまり興味を持てなかったですし……。でも、ある時に『オオカミちゃんには騙されない』という番組を見る機会があって、これが面白かった。男女の恋愛模様を追いかける番組ではあるのですが、女性メンバーの中に絶対に恋をしない噓つきの『オオカミちゃん』が一人以上潜んでいる、という設定なんです。男性陣は誰が本気で自分を好きと言っているのかを見極めなくてはならないし、女性陣は自分がオオカミではないことを相手に信じてもらう必要がある。視聴者は、そんなメンバー同士の心理戦を見守りながら、誰がオオカミなのかを推理するんですね。こんな風に番組にルールがあると、恋愛が題材でも楽しむことができるんだ! と新鮮な気持ちになりました。同時に、もしかして、恋愛リアリティーショーはミステリと相性がいいのかもしれないとも」

 本作の案内役となる主人公・小口こぐちしおりは、高校生でデビューするもなかなか芽の出ない推理作家。彼は、「出版は斜陽産業だから、重要なのはセルフプロデュース」と熱弁するプロデューサーに半ば押し切られるように、『クローズド・カップル』という番組に出演することになる。その内容は、スタッフを含む全員が孤島に渡り、泊まり込みで撮影を実施、筋書きのない恋愛模様を順次配信する、というものだ。出演者は、栞のほかに女優、俳優、グラビアアイドル、バンドマン、モデルの計6名。カメラの存在を意識しながら積極的に行動を起こす人もいれば、全くやる気のない素振りを見せる人もいて——物語の序盤は、そんな恋愛をめぐる駆け引きから目が離せない。だが、ある事件が起こったことで、若者たちの爽やかな情景は一変する。番組内で中心役を担っていた人気女優・松浦まつうら花火はなびが殺されてしまうのだ。しかし、この殺人は始まりに過ぎなかった。

「大まかな構成は最初のプロットで決めていて、連続殺人、推理合戦を書きたいな、と思っていました。その上で、密室や首切り死体といった、いわば〝ミステリ定番の素材〟を使いながら、いかに今までにないロジックを展開できるか、ひたすら考えましたね。ミステリには、名作と呼ばれる数多くの先行作品があって、推理のパターンはすでに出尽くしていると思うんです。だから私にできるのは、それらのパターンを組み合わせて、恋愛リアリティーショーという舞台ならではのトリックを成立させること。それが作品の新しさにも繫がると思いました。書くにあたって、テレビ現場の取材はしていないんです。現実を正確に知りすぎると、例えばカメラの台数やスタッフの人数など、細かいことに引っ張られて、ミステリを書く上では窮屈きゅうくつになってしまいそうで。あえて自分の作った設定のなかで書くことを心がけました」

 謎解きものとして様々な仕掛けが施されている一方で、作品に通底しているのが「恋愛とはなにか」という大きなテーマだ。読者は、最終的に浮かび上がる真実に衝撃を受けると同時に、ある重要なメッセージを突き付けられるだろう。

「冒頭で引用している、フリードリヒ・デュレンマットの『恋愛と殺人においてのみ、人は今も誠実である』という言葉は、この作品全体をよく言い表していると思います。特にラストは、構想段階から書きたいことが決まっていたので、気合いを入れました。舞台を恋愛リアリティーショーに決めた時点で、絶対に書かなくてはならないものでした」

 本書は双葉文庫ルーキー大賞受賞後の刊行だったため、当初は文庫で発売する予定だったという。しかし、版元の営業部からの強い勧めで、単行本での刊行が決定した。

「単行本を出すのが作家としての大きな目標だったので、やった! とテンションが上がりました。営業の方が、しっかりと原稿を読みこんでくださった上で判断してくださったのも、とても嬉しかったです。刊行後は、読者の方からの感想も耳に入ってきて、これは私にとって初めての経験でした。単行本だからこその反響なのかもしれません」

 読者の声といえば、本書は「2023国内本格ミステリ・ランキング」で第11位にランクインし、京都大学推理小説研究会ほか数多くの目利きたちも、「2023 MY BEST5」に挙げた。

「本格好きの方には、自分のこだわった部分を汲み取って評価していただいていると思うので、やっぱり嬉しいです。ミステリは読者の層が厚くて、その分厳しい感想をいただくこともありますが、逆にいいものを書けば、必ず誰かが反応してくれる。読者と作者が相互に作用しながら、多様な作品が生まれている場所だと思います」

〝本格マニア〟たちをも唸らせる作品を生み出した中村さん。そのミステリ愛は幼い頃から培われてきたものなのだろうか。

「熱心に読み始めたのは、実は大学生になってからなんです。なかでも清涼院せいりょういん流水りゅうすいさんの『コズミック』と『ジョーカー』には、とてつもない衝撃を受けました。ミステリ界では賛否両論あった作品ですが、当時の私にとっては今まで読んだことのない新しい小説で、破壊力を感じました。この体験をきっかけに、ミステリそのものに興味が湧いて、法月のりづき綸太郎りんたろうさんや有栖川ありすがわ有栖ありすさんといった新本格の作品を読み、さらにエラリー・クイーンなどの古典にも遡っていきました。ミステリのロジックってなんて気持ちが良いのだろう、とハマっていきましたね」

 まだまだ書きたいものがたくさんあり、着々と次作の準備も進めているという。

「同世代のミステリ作家さんたちが旺盛に書いているので、とても刺激を受けています。多くの読者に受け入れられる作品を目指しつつも、本格ミステリという軸はぶれさせずに、〝フーダニット、ハウダニット、ホワイダニット〟にしっかりこだわって書いていきたいです。次作も、腰を据えて長篇を書く予定です」


◆プロフィール
中村あき(なかむら・あき)

1990年生まれ。2013年『ロジック・ロック・フェスティバル~Logic Lock Festival~探偵殺しのパラドックス』で第8回星海社FICTIONS新人賞を受賞しデビュー。『チェス喫茶フィアンケットの迷局集』で第3回双葉文庫ルーキー大賞を受賞。23年9月、『好きです、死んでください』刊行。

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