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今村翔吾「海を破る者」

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日本を揺るがした文明の衝突がかつてあった――その時人々は何を目撃したのか? 人間に絶望した二人の男たちの魂の彷徨を、新直木賞作家が壮大なスケールで描く歴史巨篇
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#別冊文藝春秋2021年11月号

今村翔吾「海を破る者」 はじまりのことば

 世界の長い歴史において最も大きな版図を築いた国はどこか。面積ならば第1位は大英帝国で、その国土は3370万㎢に及ぶ。だが当時の世界における人口比率で考えると20%で、大英帝国は首位から陥落する。  では人口比率から考えた第1位はどこの国か。それが本作の一つの核となるモンゴル帝国である。その領土はあまりにも広大で西は東ヨーロッパから、東は中国、朝鮮半島まで、ユーラシア大陸を横断している。そして当時の世界人口の25・6%、実に4人に1人がモンゴル帝国の勢力圏で暮らしていたこと

今村翔吾「海を破る者」 #018

 元軍は難なく志賀島を占拠した。  志賀島は水の確保の難しい島であり、そう長きに亘っては陣を張れない。故に幕府としても重要視はせず、石築地を講じることも、兵を配することもなかったからである。  そのことには元軍もすぐに気付くだろう。だが今や、元軍もそう長く居座る必要はない。十万と称される江南軍を待ちさえすれば良いのだ。江南軍が現れれば、兵を割いて二方面で戦わねばならぬため、こちらとしては一刻も早く志賀島から敵を追い落としたい。  本陣に集まって対策が練られることとなった。鎮西