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今村翔吾「海を破る者」

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日本を揺るがした文明の衝突がかつてあった――その時人々は何を目撃したのか? 人間に絶望した二人の男たちの魂の彷徨を、新直木賞作家が壮大なスケールで描く歴史巨篇
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#別冊文藝春秋2021年5月号

今村翔吾「海を破る者」 はじまりのことば

 世界の長い歴史において最も大きな版図を築いた国はどこか。面積ならば第1位は大英帝国で、その国土は3370万㎢に及ぶ。だが当時の世界における人口比率で考えると20%で、大英帝国は首位から陥落する。  では人口比率から考えた第1位はどこの国か。それが本作の一つの核となるモンゴル帝国である。その領土はあまりにも広大で西は東ヨーロッパから、東は中国、朝鮮半島まで、ユーラシア大陸を横断している。そして当時の世界人口の25・6%、実に4人に1人がモンゴル帝国の勢力圏で暮らしていたこと

今村翔吾「海を破る者」 #015

 河野家一行の船が博多湾に入ったのは、伊予を出てから七日後のことであった。  六郎の手勢が百、通時の手勢が五十の、合わせて百五十余騎である。これは全て実際に戦いを行う武士であって、小者、水夫、さらに帯陣の世話をする女中は含まれていない。それらを含めると総勢は五百を超えた。 「見事なものだ」  道達丸の船上、六郎は目を凝らして呟いた。  湾に入ってまず目に入って来たのは石造りの築地である。見渡す限りに続いており、壮観の一言に尽きる。さらにその前の博多の浜には、乱杭、逆茂木があち