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今村翔吾「海を破る者」

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日本を揺るがした文明の衝突がかつてあった――その時人々は何を目撃したのか? 人間に絶望した二人の男たちの魂の彷徨を、新直木賞作家が壮大なスケールで描く歴史巨篇
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2023年10月の記事一覧

今村翔吾「海を破る者」#024

見渡す限りの蒙古軍が海を埋め尽くしている。 これが最後の戦――六郎たちは決死の覚悟を新たにした。  江南軍の船が迫って来た。季長は素早く矢を番えて弓を引き絞る。 「大将を射抜いてやるわ」  季長の弓は並のものより弦を強く張っており、射程が長い。矢は見事に頭に命中したものの、兜に弾かれて宙を舞い、海へと落ちていった。季長は大袈裟な舌打ちを見舞い、 「固い兜じゃ」  と、はき捨てた。  蒙古軍の兜は、日ノ本のものとは大きく異なる。人が被る兜は重さに限界があるため、鉄の厚さはさほ