マガジンのカバー画像

今村翔吾「海を破る者」

27
日本を揺るがした文明の衝突がかつてあった――その時人々は何を目撃したのか? 人間に絶望した二人の男たちの魂の彷徨を、新直木賞作家が壮大なスケールで描く歴史巨篇
運営しているクリエイター

2022年6月の記事一覧

今村翔吾「海を破る者」 #021

一度は元を撃退することに成功した幕府軍。 しかしこれは、長い元寇の序章に過ぎなかった。 前回の何倍もの兵力を携えて訪れた元軍を前に、六郎は――  元軍を撃退して歓喜に沸いたのもつかの間、翌日には博多の陣に再び重苦しい雰囲気が流れた。戦はまだ終わっていない。いや、本格的な侵攻は始まってすらいないのだ。  対馬は早々に元軍に占拠されてしまったが、山野に籠ってなおも抵抗を続けている者も僅かながらいた。その中の一人が決死の覚悟で対馬を脱出し、博多に陣を張る幕府軍のもとに駆け込んで来