苛烈な人生に翻弄される一人の男… 矢月秀作、新連載スタート!「桜虎の道」#001
プロローグ「今日もこの時間か……」
桜田は、街灯の明かりの下で腕時計に目を落とし、ため息をついた。
桜田哲が勤務する尾見司法書士事務所を出たのは、午前一時を回った頃だった。
任されていた不動産登記がなかなか仕上がらず、仕方なく残業していた。
ようやく一案件は書き終えたものの、まだ抱えている作成途中の書類は山積みだ。
まだまだ残業が続くのかと思い、再び、大きなため息がこぼれた。
鼻をずり落ちてきたメガネを指先で押し上げ、猫背でとぼとぼと夜道を歩く。
司法書士事務所