ピアニスト・藤田真央エッセイ #26〈響きのないステージと傾いたピアノ――イタリア・ツアー始動〉
「ニーハオ、ニーハオ」
イタリア・ミラノの青空の下、大聖堂の近くを歩いていた私は見知らぬ黒人男性に声を掛けられた。しばらく無視していたが、「コニチワ、コニチワ」と片言の日本語に切り替えられたので、思わず足を止める。すると彼は「トウキョ? ホンダ、ナガトモ、私たちはフレンドだ」と親しげな笑みを浮かべ、私に腕を差し出してグータッチをしようとしてきた。何もそれくらいは断ることもあるまいと、私も腕を差し出す。その瞬間を待っていたのだろう。あっという間に私の手首にはミサンガが巻かれ、