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2022年12月の記事一覧

高田大介『エディシオン・クリティーク #2』――読み切り完結🔎

古代ギリシア語辞典に挟まれていた、上下逆さまに記された一葉の紙片。 文献学者嵯峨野修理の推理によれば、 これはある「奇書」にまつわるものだという―― 四、奇妙な正誤表のこと  そもそも引きつけない希仏辞典なんかを繙いていたのは、戯れにその版面を覗き込んだらまったく解読が付かなくって驚いて、これはその筋の者なら意味を成すのかと訊いてみたかったからだ。せっかく辞書解読には一日の長のある修理がいるんだから、もう一つ懸案があったのを思い出した。 「そう言えば、この『希仏辞典』…

【2022年日本劇場未公開映画ベスト10】 ――日本公開が待ち遠しい10の作品|透明ランナー

 2022年もさまざまな映画がスクリーンを賑わせましたが、劇場公開されなかった映画にも数多くの傑作がありました。昨日公開した「2022年日本公開映画ベスト10」に続き、この記事では私が2022年に映画祭や英語版配信で観た「日本未公開映画」(2023年以降の公開が決まっていない作品)から10作品を挙げたいと思います。今後日本公開が決まることを願って……。 2022年日本未公開映画ベスト10①『Saint Omer』アリス・ディオップ  『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介、2

高田大介『エディシオン・クリティーク #2』 3日連続公開、2日目🔎

校了明けの編集者は癒しを求めるというもの。 ぼろぼろの真理が訪れたのは、なぜか元夫の暮らす家。 すっかり寛いでしまった真理だったが… 三、修理、食後の辞書談義のこと  その後、ひとり埼玉のマンションに帰宅した私は二つ目の段ボール箱に分けた自分の戦利品を自室に運び込んだのだが、やけに重いと思ったら、中に修理の購入したものが紛れ込んでいた。修理が自分の箱をラゲッジスペースから運び降ろした時に、上からちょっと箱を覗き込んだだけでこちらは私の箱かと簡単に考えて、置いていってしまっ

ブックガイドーー秀吉から家康へ|白石直人

 徳川家康を主人公とする大河ドラマ「どうする家康」が、来年の1月8日から始まる。当の家康の生涯についてはドラマに譲るとして、この記事では、豊臣秀吉の時代から幕藩体制確立期まで、家康の背景を理解するのに役立つ本を紹介しよう。 ◆刀狩りの実相  秀吉の刀狩りによって農民は武器を取り上げられて丸腰になった、というのは刀狩りの通俗的なイメージであろう。しかしそうした刀狩りのイメージを大きく覆してくれるのが、藤木久志・著『刀狩り──武器を封印した民衆』(岩波書店)である。  史料

イナダシュンスケ|味の素ラプソディ

第10回 味の素ラプソディ  「味の素」の話をしようとしています。よく見ると実に秀逸なネーミングですね。この調味料が目指すところをズバリ言い切って、なおかつ抜群に親しみやすい。字面も洒落てる。ただ、味の素は固有の商品名なので、この種の調味料全般を指すのには不適切とされています。それで一時期は「化学調味料」あるいは略して「化調」という呼び名も普及しましたが、これは語感的にマイナスイメージが強いということで、「うま味調味料」と言い換えることが推奨されるようになりました。なんだかま

【 #2022年日本公開映画ベスト10! 】――「今まで語られなかった物語」が語られた一年|透明ランナー

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ピアニスト・藤田真央#17「この景色の魅力を、即興曲で届けたい――アルプスの山々に囲まれて」

毎月2回語り下ろしでお届け! 連載「指先から旅をする」 ◆アルプスの山々に囲まれたお城のようなホテルで  2022年12月1日、わたしは羽田発ドイツ・フランクフルト行きの飛行機の中にいました。12月3日に、ドイツ南部のリゾートホテル「シュロス・エルマウ」でリサイタルの予定があったのです。  フランクフルト空港に到着すると、周りのみなさんがなにやら真剣にスマートフォンを見つめています。ちょうどサッカー・ワールドカップの予選リーグ、ドイツ―コスタリカ戦と日本―スペイン戦がラ

文献学者・嵯峨野修理の知的探索ミステリー! 高田大介『エディシオン・クリティーク #2』3日連続公開、1日目🔎

街外れの古書店で、古代ギリシア語辞典を調達した文献学者・嵯峨野修理。 そこに挟まれていたのは上下逆さまに記された一葉の紙片 これは、誰が何のために入れたもの……? 一枚の紙切れも、文献学者の手にかかれば謎の宝箱に早変わり! 知的探索ミステリー、本日から3日連続公開です。 ディレッタント、言の葉を検める Νίψον ανομήματα μη μόναν όψιν 顔ばかりではなく罪も洗い清めよ     ——聖マーティン寺院の聖水盤 一、例により嵯峨野家訪問のこと  さて

『淀川八景』(藤野恵美・著)の装画が完成するまで【テーマソングリスト付き!】

大阪生まれ・大阪育ちの小説家が 大阪人の悲喜こもごもを描いた短篇集『淀川八景』。 『別冊文藝春秋』からうまれた八本の作品が、このたび 美しい文庫になりました。 装画家・草野碧さんに、文庫装画の制作プロセスを 教えていただきました!  大阪弁でこう言われたら、なんだか肩の力がぬけて妙に納得させられてしまいます。  日々いろんな経験をしていると、うっかり自分だけが大変だと思いがちですが、「みんなそれぞれにドラマがあって頑張っているんだなぁ……」と、読み終わったとき、以前より少

1月刊「文春文庫」見本到着!!! プレゼントご希望の方、ご応募お待ちしております

 2023年1月4日(水)、文春文庫の最新ラインナップが刊行されます。  そのラインナップ全13作の「見本」が、ひと足お先に編集部にずらり!  印刷所から届いたばかりのこちらを抽選で各1名様に、いち早くお届けします! 1月のラインナップ『荒ぶるや 空也十番勝負(九)』(佐伯泰英・著) 『わが殿』上下巻(畠中恵・著) 『陰陽師 鼻の上人』(夢枕獏・著/村上豊・絵) 『耳袋秘帖 南町奉行と犬神の家』(風野真知雄・著) 『鑑識課警察犬係 闇夜に吠ゆ』(大門剛明・著) 『希望のカケ

本田由紀|沈滞する日本社会に活路はある? 希望を抱かせてくれる力強いメッセージ――浜田敬子『男性中心企業の終焉』(文春新書)に寄せて

***  先日、ある経営学者のお話をうかがう機会があった。現在の日本企業では総じて「イノベーション」が低調であり、それを活性化するためには、「変化の常態化」(いつもと違う駅で降りてみよう!)や「失敗の許容」(ジョブズの成功は数々の失敗から生まれた!)、そして社内の「ダイバーシティ」(性別や国籍など多様な属性や感覚をもつ社員が会社のミッションを共有すること!)が必要だという。  お話のあとで私は質問した。「データによれば日本の社長をはじめ経営層は世界の中でもダントツで高齢で

経営危機に翻弄される私立美術館の現在――ヴァンジ彫刻庭園美術館&クレマチスの丘|透明ランナー

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。  東京都心から車で約2時間の静岡県長泉町。駿河湾を望む富士山麓の広大な丘陵地に位置するのが、複合文化施設「クレマチスの丘」です。緑豊かな庭園、地場食材を使ったレストラン、花に囲まれたカフェに加え、4つの個性豊かなミュージアムが点在しています(①ヴァンジ彫刻庭園美術館、②IZU PHOTO MUSEUM、③ベルナール・ビュフェ美術館、④井上靖文学館)。ちょうどこの時期は庭園を彩る美しい紅葉を目にすることができます。

なちこ「市松人形」――#2000字のホラー〈最恐版〉

*** 市松人形 娘が小学三年生に上がった頃、学校帰りに連れて帰ってきたのは犬でも猫でもなく、古い小ぶりの市松人形だった。  私は小さい頃から人形と名のつくものはとんと苦手だった。  そのため、娘には申し訳ないと思いつつ、お世話人形のメルちゃんや着せ替え人形のリカちゃんなどは与えてこなかったのだ。  だから「ママ、捨てられてて可哀そうだから連れて帰っちゃった」と人形を手渡されたとき、私は小さな悲鳴をあげて手を引っ込めてしまった。  その古い市松人形はお世辞にも可愛いといえる

田原にか「拡散」――#2000字のホラー〈最恐版〉

*** 拡散 マスク姿の高校生の画像がついたツイートは瞬く間に拡散された。  私も即座にリツイートした。同じ年の息子がいる母親として、他人事とは思えなかった。しかも近所である。すでに1万を超えるリツイートがあるが、まだ息子さんは戻ってきていないようだ。  そして次の日、失踪者の母親がツイートをした。  行方不明というのでヤンチャしている子かもしれないと勘ぐってしまっていた。しかし誕生日のケーキを前に笑顔を見せている息子さんはむしろ読書の似合うタイプに見えた。昔は息子