2022年10月の記事一覧
辻村深月|父と娘という新たな光を得て、彼女たち「娘」の作品や言葉が再び広く知られていくことを願う――梯久美子『この父ありて 娘たちの歳月』に寄せて
*** 本書に登場する「娘」の一人である詩人・石垣りんのこんな文章が、彼女の章の冒頭で紹介される。 独身で、父、義母、二人の弟と同居する家で唯一の働き手となり、椎間板ヘルニアの大きな病気をきっかけにようやく休養が取れたという彼女が、手術前夜を書いた〈その夜〉の一節だ。 本書の著者、梯久美子はこの詩に出会ったときのことを、「しびれるように身にしみた」と書いている。そして、本書によってこの詩に出会った私もまた、時を経て深い感動を覚えた。その石垣りんは、自分の家について、