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2022年9月の記事一覧

10月の更新予定

■新連載  ・高田大介「エディシオン・クリティーク」 お待たせ致しました! 『図書館の魔女』の高田大介さんによる小説連載「エディシオン・クリティーク」が始まります。 ひとかけらの手掛かりから失われた物語を復元する、文献学者を主人公にした知的探索ミステリー。ご本人も言語学の徒である高田さんが紡ぐ、とびきり浮世離れしたディレッタントの活躍をご堪能ください。 ⇒10/13(木) 第1回公開 ■イベント情報 ・透明ランナー生配信 アート&シネマレビュー「そっと伝える」を連載

イナダシュンスケ|ホルモン奉行、卒業。

第8回 ホルモン奉行、卒業。   人が何かを好きになる時。それは、気が付けば自然とそれを好きになっているだけではなく、好きになりたいと思ったものを好きになる、そんなことが結構あるのではないかと思っています。  僕は20代の頃、焼肉屋のいわゆる「ホルモン」を、好きになりたいと思っていました。そしてそれを実際に好きになっていたと思います。  当時「食通」の人々は、こんなことをよく言っていました。 「焼肉は、結局『ホルモン』に行き着くんだよ」  その世界観においてカルビやロー

透明ランナー|「見るは触れる 日本の新進作家 vol.19」展――広がり続ける写真芸術の自由な可能性

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。  今回紹介するのは、東京都写真美術館で開かれている「見るは触れる 日本の新進作家 vol.19」展です。「日本の新進作家」展は2002年から東京都写真美術館で定期的に行われている企画展で、新たな写真・映像表現に挑戦している若手作家の作品をピックアップして紹介するものです。私は2008年の「vol.7」以降毎回訪れ、どんな作品と出会えるのかいつも楽しみにしています。  写真は比較的最近まで美術館に飾られるような芸術作

ピアニスト・藤田真央#11「ヴェルビエ音楽祭――アルゲリッチの代わりに立つ」

毎月語り下ろしでお届け! 連載「指先から旅をする」 ★今後の更新予定★ #12  10月5日(水)正午 #13  10月25日(火)正午  夏の欧州は、各地で音楽祭が花盛り。7月にはロッケンハウス室内楽フェスティバル、ヴェルビエ音楽祭、ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノフェスティバルと、わたしもずいぶん飛び回って、あちらこちらで演奏をしてきました。  音楽祭はその土地の空気や、その街ならではの音楽の楽しみ方を肌で感じられるのがいいですね。たとえばラ・ロック・ダンテロン国際

透明ランナー|第25回文化庁メディア芸術祭――今年で最後のメディア芸術の祭典を振り返る

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10月刊「文春文庫」見本到着!! プレゼントご希望の方、ご応募お待ちしております

 2022年10月5日(水)、文春文庫の最新ラインナップが刊行されます。  そのラインナップ全12作の「見本」が、ひと足お先に編集部にずらり!  印刷所から届いたばかりのこちらを抽選で各1名様に、いち早くお届けします! 10月のラインナップ『楽園の烏』(阿部智里・著) 『神域』(真山仁・著) 『月夜の羊 紅雲町珈琲屋こよみ』(吉永南央・著) 『死してなお』(矢月秀作・著) 『ファースト クラッシュ』(山田詠美・著) 『鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿 稲村ヶ崎の落日』(鳴神響一・

二宮敦人「サマーレスキュー ポリゴンを駆け抜けろ!」#008

オンラインゲーム「ランドクラフト」内で、 ずっと千香のあとをつけてくる狼男。 このアナーキーな世界で、彼は何を求めているのだろうか…  ふと気が付くと、狼男は千香に向かってチャットを送り続けてきた。 〈たまたまお互いの都合がいいってことを、友達って言うんじゃねえのかな〉  じっくり聞かせろよ、などと言った割には、自分の言いたいことを延々と送ってくるばかりだ。 〈つまり、大事なのは自分の都合だけだ〉  千香は下唇を嚙んだ。 〈友達だけじゃねえ。親も兄弟も、恋人だって何だってそ

二宮敦人「サマーレスキュー ポリゴンを駆け抜けろ!」#007

行方不明になった幼馴染を捜すため、 オンラインゲーム「ランドクラフト」にログインした千香。 そこは犯罪の温床たるアナーキーワールドだった。 千香のうしろには、あとをついてくる怪しげな影が… 第四章 送り狼には気をつけろ。  どこかで聞いたことのある言葉だ。送り狼とやらが何なのか、千香にはわからなかったが、今の状況はそんなフレーズを思い出させた。背後を振り返り、千香はため息をつく。 「まだついてくる」  岩の陰から、狼男の姿をしたキャラクター「Lobo」がこちらを覗いている。

透明ランナー|『LOVE LIFE』――人と人との分かりあえなさ、深田晃司が描き続ける“孤独”

 映画『LOVE LIFE』が2022年9月9日(金)から公開されています。本作の深田晃司(ふかだ こうじ、1980-)監督は、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞した『淵に立つ』(2016)をはじめ、人間の心に根ざす孤独を見つめる映画を作り続けてきました。  本作の主人公は30代の女性、妙子(木村文乃)。再婚した夫・二郎(永山絢斗)、息子の敬太(嶋田鉄太)と3人で暮らしています。団地の部屋のベランダからは中央にある公園が⼀望でき、向かいの棟には⼆郎の両親

潜入先は、音楽教室。傷付いたスパイが見つけたものは――安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』

 スパイ活動を命じられた美貌の青年。潜入先は、町の音楽教室だった——。 『天龍院亜希子の日記』で鮮烈なデビューを飾った安壇美緒さん。第3作『ラブカは静かに弓を持つ』は飛躍の一作となった。  主人公の橘樹は、400万曲以上の音楽著作権を管理する「全日本音楽著作権連盟」、通称・全著連に勤めている。ある日、彼は上司から極秘任務を命じられる。  全著連は、音楽教室から著作権使用料の徴収を開始することを決めた。それを受けて、音楽教室を経営する業界最大手の楽器メーカー・ミカサを中心とした

大前粟生「サウナとシャツさん、ふつうの男」後篇

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大前粟生「サウナとシャツさん、ふつうの男」前篇

モブキャラのような俺の前に現れた十六万円の最高のシャツ。 没個性への希求と、初めての衝動の狭間で、俺は―― ▽後篇はこちら 1「オレらの仲っていつまで続くんやろうなあ」  隣でヤチがそう言った時、俺は恥ずかしくてうれしくて、どうしてかその言葉は、俺から出てきたみたいに体に馴染んだ。 「それなー」  八畳ほどのサウナ室は大方埋まっていた。俺らは全部で四段あるひな壇のような席の一段目に腰掛け、熱を耐えていた。  ヤチをはさんで反対側に腰掛けている甲斐田流星が、壁に掛けられた温

透明ランナー|「李禹煥」展――代表作から新作まで、現代美術界の巨匠の絵画と彫刻の“変遷”を楽しむ

 1960年代から現在に至るまで、絵画と彫刻の両面で戦後日本の現代美術を牽引し続けてきた巨匠、李禹煥(リ・ウファン、1936-)。国立新美術館の開館15周年記念展として、彼の業績を振り返る大規模個展「国立新美術館開館15周年記念 李禹煥」が開催されています。  李は韓国で生まれ、日本で文学や哲学を学んだ後、1960年代後半から本格的に絵画・彫刻作品の制作を始めます。初期には物質にほとんど手を加えずそのまま作品として提示する「もの派」の一員として活動。並行してカンヴァスに余白

麻布競馬場・誕生前夜――それでも僕は、東京にしがみつく

2021年10月にTwitterに小説の投稿を始めて以降、人々の心をざわつかせ続ける匿名アカウント「麻布競馬場」。東京に疲弊し、それでも東京に生きることをアイデンティティとせざるを得ない人々をシニカルに描きだす彼の作品は、「タワマン文学」として多くの支持を集めています。 彼は、なぜ今日も小説を投稿し続けるのか――。 9月5日、ショートストーリー集『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』を刊行したばかりの麻布競馬場に、その来し方を綴ってもらいました。  暇さえあればいつも「