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WEB別冊文藝春秋

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2022年7月の記事一覧

イナダシュンスケ│スパイス、ハーブ、薬味… だけじゃない「マズ味」の話    

第6回 マズ味は文化だ 前回は、パクチーの「マズ味」に関するお話でした。マズ味とは、おいしくないということではなく、むしろおいしさを構成する要素です。  マズ味が重要な食べ物は、パクチー以外にもたくさんあります。すぐ思いつくところで、葱、生姜、大葉、茗荷、といった薬味類。パクチーを初めて食べた時からおいしいと思った人が少ないように、こういった薬味類が子供の頃から好きだった人もそういないでしょう。  記憶を辿ると僕も、葱→生姜→大葉→茗荷の順で徐々に克服していった気がします。ま

「図書館の魔女」高田大介さん奇跡の初ライブトーク

※アーカイブ動画の公開は終了しました。 ご視聴くださったみなさま、ありがとうございました。  「図書館の魔女」シリーズで一大ファンタジーブームを巻き起こした高田大介さん。8月18日(木)、高田さん初のオンライントークイベントが開催されました!  当日はパリから250キロの古都トゥールにあるご自宅から生配信。フランスの夏の青空の下、ウィットに富んだ軽妙なトークを堪能するなんとも贅沢な3時間となりました。 トーク内容 〈前篇:120分〉 レクチャー「フランス語の具体の科学」

竹宮ゆゆこ×岡田育ライブトーク!!「わたしたちの偏愛」

※アーカイブ動画の公開は終了しました。 ご視聴くださったみなさま、ありがとうございました。 *** 『とらドラ!』シリーズや『砕け散るところを見せてあげる』など、思春期の衝動を圧倒的熱量で描き出す異才・竹宮ゆゆこさん。  最新刊『あれは閃光、ぼくらの心中』は、15歳のピアニスト志望の中学生と25歳のホスト、男子ふたりの奇妙な共同生活を描いた物語です。  竹宮さんにとって「自分の愛するものを全部詰め込んだ、集大成的作品」という本作。その刊行を記念して、竹宮さんにご自身の「偏

透明ランナー|『戦争と女の顔』――私たちの戦争は終わらない

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。  この映画を紹介できること、それは私にとって何よりの喜びです。初めて本作を観たのは2019年。私はあまりの素晴らしさに言葉を失い、「こんなにすごい映画がある!」「絶対日本でも公開されるべき!」と周囲に言い続けてきましたが、2022年7月15日(金)ついに劇場公開されることとなりました。  何も言わずにとにかく観てほしい。その一言に尽きます。  カンテミール・バラーゴフ監督の映画『戦争と女の顔』の舞台は、第二次世界大戦

吉田大助│これは「アンファン・テリブル(恐るべき子どもたち)」の系譜を発展的に受け継いだミステリーなのだ

「宿命論的な人生観」を回避するためには 短いプロローグで記されるのは、「僕」が親子間のDNA鑑定の結果を今まさに目にしようとする瞬間だ。切り取られたクライマックス・シーンの一部には、こんなモノローグが書き込まれている。 〈才能とは遺伝子で決まるのか、それとも環境で決まるのか〉。正直なところ、この一文を目にした時に抱いたのは不安だった。どちらか、ではなく、どちらも、では何故いけないのか? もしもどちらかを決めるような物語であったら……という不安を推進力の一つにしながら読み進め

エモすぎる!将棋の世界に生きる勝負師達の物語――綾崎隼『ぼくらに嘘がひとつだけ』第一部を先行公開☆

「WEB別冊文藝春秋」で連載されていた 綾崎隼さんの最新作『ぼくらに嘘がひとつだけ』が 7月25日(月)に刊行されます! 女性棋士を目指す少女たちを描いた『盤上に君はもういない』が版を重ね、『死にたがりの君に贈る物語』がTikTokでも話題となりベストセラーに。 まさにいまエンタメ小説界で最も注目される書き手の一人である綾崎さんが最新作の舞台として選んだのは、プロ棋士を目指す若者たちが集う「奨励会」でした。 エリート棋士の父を持つ長瀬京介と、落ちこぼれ女流棋士の息子・朝比

透明ランナー|「ルートヴィヒ美術館」展――ドイツ表現主義から現代美術まで、“市民が創った”豪華なコレクション

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。  あれは2010年10月のこと。東西ドイツ統一20周年を記念して各地で行われる式典にあわせて私はジャーマンレイルパスでドイツ全土を旅行していました。フランクフルトからハンブルクに向かう途中ケルン中央駅で3時間の乗換時間があり、駅から目と鼻の先にある美術館に寄る計画を立てていました。コレクションや美術館の歴史などを調べてウキウキでその日を待っていたところ、前の列車が遅延して乗換が20分しかなく泣く泣く諦めた……という思い

作家・南木義隆が一冊の本を上梓するまで──ロングエッセイ「百合とリヴァイアサン」

 二〇一五年、二十三歳の僕はある小説講座を受講していて、淡く日が差す五月の午後に、ちょっとした浮遊感を覚えつつ日本近代文学館へ向かっていた。小説家志望の青年にとって、理想の一つである作家を前にすることは、些かの緊張と、高揚とが入り混じっていた。その頃に僕が書いた小説は短編が十数本に、長編が一本。ほとんどが同人誌に寄せて書いたものだが、幾つかは新人賞にも送った。創元SF短編賞に三度送っていずれも一次選考落ち。ハヤカワSFコンテストに当時唯一書き上げられた長編を送って二次選考落ち

二宮敦人 #006「サマーレスキュー ポリゴンを駆け抜けろ!」

小学4年生の春、千香とおじいちゃんが作り上げた 「ランドクラフト」のワールド「おひさま帝国」の建国記念日はもうすぐ。 みんなきっと楽しみにしてくれる、そう思っていたけれど……  あれは小学四年生の春だった。 「どうだい、学習塾は」  安楽椅子で祖父が揺れている。 「うーん、テストが多いから嫌。宿題も多いし。どうしてこんなに勉強ばっかりさせられるんだろう」  千香はフローリングに寝っ転がりながら、テレビを眺めていた。 「お母さんは、ちかちゃんの将来が心配なんだよ」 「ずるいよ

透明ランナー│『わたしは最悪。』――何者にもなれずもがく30歳のリアル

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。  7月1日(金)に公開されるやいなや大きな話題を呼び、平日でも多くの回で満席となってミニシアターを沸かせている映画があります。ノルウェーからやってきた『わたしは最悪。』(2021年、ヨアキム・トリアー監督)です。  主人公は30歳の女性ユリヤ。医学部で学んでいたものの突然心理学、そして写真家へと転向しますが、節目の年齢を迎えてもまだ自分の方向性がはっきりと定まりません。彼女はひとまわり年上でグラフィック・ノベル作家と

二宮敦人 #005「サマーレスキュー ポリゴンを駆け抜けろ!」

行方不明となってしまった祥一の足跡をたどるため、 オンラインゲーム「ランドクラフト」に参加すると、 千香はずっと封印していたある衝動にかられる。 一方、巧己が「ランドクラフト」をする理由は、別にあるようで…… 第三章 逃げても逃げても、追いかけてくる。  ポリゴンでできた四角い体の殺人鬼が、赤い目を光らせて、執拗に忍び寄ってくる。千香は何度も後ろを振り返りながら、夜の街を右に曲がり左に曲がり、がむしゃらに逃げ続けた。もうだめ、これ以上は走れない——そう思ったところでようやく

二宮敦人 #004「サマーレスキュー ポリゴンを駆け抜けろ!」

アナーキーなプレイヤーが集う「3T」にログインした千香と巧己。 敵の攻撃をすり抜け、罠が張り巡らされたエリアを やっとの思いで抜け出した二人が見たものは…… 「千香、こっちだ、こっちに来てくれ!」  すぐ隣で、ノートパソコンを操作しながら巧己が叫んでいる。こっちと言われても困る。 「ゲームの中なんだから、座標か方角で教えてよ」 「右! 右の方にいる。この崖見てくれよ、なあ」 「だから誰から見て右なのさ」  とはいえ、巧己のことだからどうせ自分から見ての話だろう。注意深く画面

透明ランナー|「アレック・ソス Gathered Leaves」展――“アメリカが誇る最も完璧な写真家”の魅力に迫る

 こんにちは。あなたの代わりに観てくる透明ランナーです。  マリンスポーツが盛んで御用邸があることでも知られる風光明媚な神奈川県三浦郡葉山町。JR逗子駅から相模湾に沿ってバスで20分ほど走ると見えてくるのが「神奈川県立近代美術館 葉山」です。美術館の裏手は夏には海の家が立ち並ぶ海水浴場となっており、入口に「水着でのご入館はご遠慮ください。砂を落としてからご入館ください」と注意書きがあるほど海が間近に迫っています。そんな気持ちのいいロケーションで6月25日(土)から始まったのが

ピアニスト・藤田真央 #08「ベルリンの空の下、師を想う」

毎月語り下ろしでお届け! 連載「指先から旅をする」 ★今後の更新予定★ #09 8月25日(木)正午 #10  9月5日(月)正午  4月末に日本を発って拠点をベルリンに移し、新しい生活が始まりました。  ベルリンは何度も訪れておりましたし、もともと勝手知ったる街ではあるのですが、ひとり暮らしをするのは初めてなので、毎日小さな発見があって楽しい日々です。  アパートメントは学校から少し離れたところに位置しているのですが、静かで素敵なところです。引っ越してきた日には、隣