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第14回 今井真実|食生活を整える。体重計の数字に驚いた日に作る、お味噌汁の素

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 この夏、体重が3kgも増えてしまった。最高記録の更新である。
  7月に行った韓国と台湾へのはしご出張は、連日会食続きでおいしいものを自制することなくたらふく食べてしまった。

 きっとこれは大変なことになっているだろうな、と思っていたものの、その分いつもより歩いているしと、たかをくくっていたのだった。
 帰国後、さあいよいよ現実と対峙しようか、と心の準備を整えてから体重計に乗ったところ……。目の前が真っ暗になり、うわんうわんと耳鳴りがする。いやいやこんなはずがない、間違いだろうとそのあと5回ほど体重計に乗り直したが、数字はぴたりと変わらない。大きく予想を上回っていた。
 「覚悟はしていたけれど」なんて口先ばかりで、正常性バイアスがかかっていた私は、「増えたとて1kg程度でしょう」と油断をしていたのだった。
 外食を1週間も続けて、毎食お腹いっぱいになるまで食べていたのだから、何も不思議なことではない。当たり前の結果である。深呼吸を繰り返し、これから家で栄養バランスの良い食事を心がけていれば大丈夫、と気に病むことを無理やり止めにした。

 料理家という職業は少し特殊で、仕事を通してその人の食の趣味嗜好が透けて見えてしまう。そんな理由から、料理家の中には、風邪をひいたということすら公言しない人もいるほどだ。「自分の考案したレシピが、健康的な生活を担保する」というイメージを守るためである。
 それと同じで、私は自分の体形が大幅に変わることは良くないと思っている。元々、プラスサイズだし、このまま体重が右肩上がりだと健康を害してしまうかもしれない。それに、私のレシピを食べ続けると太ってしまうというような事象を作ってはいけない。私自身の体重は、増えもしない、減りもしない「現状維持」。これがモットーだった。

 しかし、大人になってから現状をキープすることは、なんと難しいことか。加齢により、基礎代謝は落ちるわけだし、家で仕事をしていると歩くこともしない。前は子供の幼稚園や習い事の送り迎えがあったけれども、悲しいやら嬉しいやら、子供が成長するとすっかりその機会も減ってしまった。活動量は減っているのに、食べる量は変わらない。仕事で試作と試食をくりかえし、なんなら増えている。
 こんな時に限って、「今井さん! 揚げ物のレシピ本を作りませんか!?」と編集者にキラキラした目でご提案いただいた。このタイミングで揚げ物のレシピを何十品も作ったら、いよいよ取り返しのつかないことになる。「ごめんね、出来ないのよ。この夏3kg増えたんだもん!」と言うと、編集者は神妙な表情で納得していた。さては、私の顔が以前にも増して丸くなっていたことに気づいたのだろう。

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