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高瀬隼子×大前粟生「怖くてあたたかい小説の世界」|『め生える』『チワワ・シンドローム』を語りつくす初対談!

 大前おおまえ粟生あおさんの『チワワ・シンドローム』を読んだ高瀬たかせ隼子じゆんこさんの第一声は「待って、こわいこわいこわい」。対等なはずの友人関係に潜む「支配」を鋭く描き出した作品です。
 私たちを取り巻くそのような「怖さ」を絶妙にすくい取って小説にするお二人の創作の秘密に迫ります。(司会進行=U-NEXT・寺谷てらたに栄人ひでと/撮影=松本まつもと輝一きいち

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——お二人はちゃんとお話しされるのははじめてなんですよね。高瀬さんは愛媛から大学進学で京都に出られて、大前さんは兵庫から京都に出られて、大学時代を京都で過ごされたという共通点はありますが、でも時期は被ってらっしゃらないんですよね。

大前 ちょうど高瀬さんが大学を卒業される年に僕が入学したようです。

高瀬 ぱっきりわかれてますね。私は立命館りつめいかん大学に通っていて、キャンパスが金閣寺のあたり、山の方にあったので、京都の思い出がいわゆる碁盤の目の外にしかありません。

大前 僕は同志社どうししやで、文系学部の最初の2年間はキャンパスが大阪・奈良との府県境の京田辺きようたなべ市というところにあって。地元がめちゃくちゃ田舎で、大学生になって「これで都会で暮らせるわ」と楽しみにしていたら、最初の2年間がすごい田舎で拍子抜けしたというか(笑)。3年生になってキャンパスが変わって、出町柳でまちやなぎのあたりに引っ越しました。

高瀬 いちばん京都っぽいところですよね。鴨川かもがわデルタとかあって。……やっぱり時期も場所も被ってない(笑)。

——ちなみにお二人の新刊をもう読まれた方はどれくらいいらっしゃるのでしょうか。

(7~8割方手が挙がる)

高瀬 ありがとうございます。じゃあ多少ネタバレして大丈夫ですね。

◆不条理が当たり前になった世界で

——では発売順に、高瀬さんの新刊『め生える』を大前さんはどう読まれましたか?

大前 せっかくだからあらすじからご紹介できたらと。ちょっとSFっぽい設定というか、ある日をきっかけに16歳以上くらいの大人の頭から髪の毛がなくなった、ディストピア的な世界を描いている作品です。髪の毛がなくなったその日以降の日常を、昔から髪が薄いことがコンプレックスだった真智加まちかと、その日パニックになった男性に公衆トイレで髪の毛を切られた琢磨たくまという二人の視点から描いています。
 みんなはげてしまったあとの日常を描いているんですけど、見た目に変化が訪れても、人は何も変わらないっていうことが描かれていて。いま現実ではげている人がいじられたり自虐したりしているっていうのを、そのまま反転して書いている。髪がない世界で髪がある人はある人なりに苦しんでいるというか、目立つということを何より恐れていて、でもどうしてそういうことを恐れてしまうのかということにあまり疑問を持たないなかで暮らしている。不条理に苦しみながら、でもそれが当たり前というか、仕方ないしなと思って生きている人たちの話です。

高瀬 えっ、めっちゃわかりやすい。丁寧にまとめていただきありがとうございます。うれしい……と同時に私こんなにうまく大前さんの本の紹介できるかな、と焦り始めました(笑)。

大前 僕は高瀬さんの小説を「怖い」と思いながら、不条理ものというか、ホラーだと思って読んでまして。人間の社会の理不尽さをそのまま描きながら、登場人物たちがみんな他者とか社会から求められる役割と本来の自分自身との間で板挟みになっている。そして、結局その板挟みになっているところから抜け出したりできないまま終わるので、かなり怖いなと。
 でも、みなさんもそうだと思うんですけど、高瀬さんの小説からは「あたたかさ」みたいなものも感じるんですよね。それは心理描写がすごすぎることでそうなってるのかなと思ってて。ちょうどかゆいところに手が届く、みたいな。人の心理を描くのがすごく上手だなと。不条理のなかに、「そこ気付いてくれたんだ」みたいな部分があるのが高瀬さんの小説の特徴かなと、思っています。

高瀬 ありがとうございます。そうか、そうなんですね。私、書いてるときは怖い話にしようとは思ってないんです。むしろ怖くはないよね、と思いながら書いてて。でも読んでくださった方の感想を聞いて私も怖くなることが結構あるんですよ。
 いま私たちの社会では、なぜか「はげ」だけは笑っていいことになってる気がしたんです。笑っちゃダメなのに笑っていいものになっているのが気持ち悪くて、『め生える』を書き始めました。最近も、道端で幼い子どもが大声で「はげ!」と言って笑ってるのを目にして。

大前 え、人を指さしてですか。

高瀬 たぶんそうです。

大前 えっ、こわ!

高瀬 でもそれって、生まれた時からそうやって笑ってるんじゃなくて、テレビとか親御さんとか、周りの誰かから受けた影響でその子は笑ってるわけじゃないですか。はげの話っていうだけでなんか「ふっ」て笑う人もいるだろうなと思って、怖いのはそっちじゃないかと。はげが笑われる世界が怖いから、読んで怖くなるんだと思います。


◆小説の怖さとあたたかさ

——先ほど大前さんは、高瀬さんの作品のなかには「あたたかさ」があるとおっしゃっていましたが、たとえば『め生える』だとどこに感じられましたか?

大前 言葉とかフレーズがあたたかいっていうより、人がほんとはこう思っているってことを小説の中の言葉として読んで知ることができるということ自体があたたかいっていうか、うれしく感じるんです。

高瀬 自分の小説についてではないですけど、本を読むときにそういう経験はしているのでわかります。好きな作家さんの本を読んでいて、作品も大好きなんだけど、書かれている深刻なテーマや重たい描写に傷つくことがあるんです。でも、傷ついて辛いけど、その傷からしか動けないというか。辛い話でも、そういうものを受け取ったときに励まされた感じがするんですよね。読んでるときは傷ついてるけど、2、3日後に励まされていたり、人生を通して励まされていたり。でも自分の本では自分は励まされていないかもしれないです。

大前 先ほどかゆいところに手が届くというふうに言いましたが、高瀬さんの小説にはそういうパンチラインみたいなものがありますよね。ご自分では「よしここはウケるぞ!」みたいに思ったりしますか?

高瀬 いや、逆に私は「普通さコンプレックス」みたいなのがあって。ずっと小説家になりたかったけど、イメージのなかの小説家は破天荒で、お酒を飲んで暴れまわってるんですよ。法律とかも守らないみたいな(笑)。だからこそ人にはない発想ができる、天才みたいな人。自分はこつこつ真面目なタイプで、就職してからも11年半くらい無遅刻無欠席で働いたんですよ。そんなふうに社会から求められる型にはまれる自分が考えることって、特別ではなくて、誰もが考えてることだとずっと思ってて。もちろん人は一人ひとり違うので、それはそれで傲慢なのはわかってるんですけど、でも自分なんかが思いつくことはみんなもう思ってるでしょっていう意識がずっとあるから、パンチラインが書けてる自信とか自覚はないです。

大前 そうなんですね。読者としては、こんなに人のことがわかっている人ならなんでも書けるだろうなと思っちゃいます。『ドラえもん』とか。

高瀬 『ドラえもん』ですか!? それはどういうことですか?

大前 『ドラえもん』って話の型があるじゃないですか。ドラえもん自体のイメージも。そういう強い縛りがあるものと、高瀬さんの小説が出会ったらどういうものになるんだろうってすごい気になってて。

高瀬 私の小説を読んで「怖い」とおっしゃった大前さんが『ドラえもん』を書けって言ってくるのが不思議で(笑)。それは「怖いドラえもん」なのか、「怖さを封印した高瀬のドラえもん」なのか、どっちなんでしょう?

大前 わかんないです(笑)。

高瀬 怖いドラえもんは子供に見せたくないですよね。とすると、ハートフル路線……でもハートフルな話は書いてみたいんですよ。デビュー前の作品にはそういうものもあった気がします。

大前 高瀬さんが思うハートフルってどんなものですか?

高瀬 「池の水ぜんぶ抜く」っていうテレビの企画があるじゃないですか。あんな感じで、汚くて大きい池があって、外来種を全部釣って在来種だけにしようっていうボランティアをしている人たちが「外来種だ、殺せ! 卵も全部引き上げて殺せ!」ってやってるのを、そのボランティアには所属していない中年男性が見て、傷つくっていう話を昔書いて。

大前 それ、ハートフルなんですか?(笑)

高瀬 ボランティアの人たちは正義感をもって殺してるけど、傷ついたおじさんは夜中にこっそり餌をやるんです。それが見つかってドタバタあって、会社でも嫌なことがあって、池に飛び込んで死んじゃうっていう、そんなオチだったと思います。この話は賞に応募したけど落選しました。

大前 それは普通に怖い話だと思うんですけど(笑)。

高瀬 命を愛する気持ちみたいなテーマを書いたっていう意識からハートフルだと記憶していたんでしょうね。いま思い出したのでつい話しちゃいました。
『ドラえもん』はちょっと書いてみたいですね。もし書けたら裏でこっそりお送りします。

大前 ぜひお願いします(笑)。


◆主人公が怖かった『チワワ・シンドローム』

高瀬 では『チワワ・シンドローム』のお話を。主人公の田井中たいなか琴美ことみさんは、自分にすごく自信がなくて自己評価が低いんですね。「私なんかが」って言っちゃうタイプの女性で。恋人になりかけてる男性の三枝さえぐさ新太あらたさんがある日、急に連絡が取れなくなっちゃう。新太どうしたってなって、LINEとか送っても全然既読にならなくて落ち込んでたときに、昔からの友だちの穂波ほなみ実杏みあさんが「琴美大丈夫?」って来るんですね。ミアはすごく美人で自分にも自信があって、琴美とは真逆なんです。ミアはインフルエンサーをしていて、自分に自信がない、「死にたい」って言ってる子たちを「あなたは大丈夫だよ」と優しく守ってくれるような人。
 琴美とミアが二人でいなくなった新太のことを捜しはじめるんですが、世の中では〈チワワテロ〉が起こる。新太がいなくなる前に、新太のシャツの袖のところにチワワのピンバッジがついてたんですが、同じように街中でもチワワのピンバッジが800人くらいの人につけられるっていう〈チワワテロ〉が起こって。でもどういう基準で選ばれてつけられたのかがわからなくって、新太捜しと〈チワワテロ〉の謎解きが並行して進んでいく。だから続きが気になって一気読みした方が多いんじゃないかと思います。

高瀬 ストーリーはミステリー仕立てでドキドキワクワクするんですけど、めっちゃ怖かったんですよ、私。もちろんストーリーはホラーじゃないし、誰かを傷つけたり殴ったりということも起きないので、そこは怖くない。新太がいなくなったのも怖いけど、新太は自分の意志でいなくなっているので事件とかじゃない。でも「人間」が怖かったんです。
 私は最初から、主人公の琴美が怖かったんです。高校時代にミアから「いつまでも、弱くて可愛いままでいてね」って言われたその言葉をずっと心のお守りのように思ってるという描写があって。そう思いながらずっとミアとつき合ってるこの子怖い! って。
 でもきっと、新太を捜す過程で琴美が成長する話なんじゃないかという予想を立てて読んでいました。実際、いろんな事件を越えていくなかで、琴美には変化があって、そこで琴美は怖くなくなったんですけど、ミアは怖いままだったんですよ。ミアは最初から最後まで怖かった。でも最初の怖さは、琴美に対して自覚的に「あなたは弱いから私が守ってあげる」っていう「支配」の怖さだったんですが、最後のほうはむしろミアのほうが琴美に依存してしまっているというふうに私は読んだんですね。ミアは自分の考えるミアであるために琴美が必要で、自分が強くあるために弱い人を求めている。最後には警察沙汰まで起こしてしまって、救済が必要なのはミアのほうだと思った。いちばん怖かったのが、琴美に「もう自由になっていいんだよ」って言われて、それは琴美の成長から出た言葉なのに、それに対してミアは、「だから私は、琴美を選んだのかな」って返すところ。どこまで行ってもこの子は「自分が与える側だし選ぶ側なんだ」っていう意識が変えられないんだなと。もうミアを助けてあげたい! ミアがいちばん怖いままじゃん! ってなって。

大前 ありがとうございます。めちゃくちゃ丁寧に読んでくださって、自分はそんな話を書いたんだと改めてわかったような気がします。

高瀬 でもまずはストーリーが面白かったです。なんでミステリー仕立てにしたんですか?


◆探偵の推理ショーは、優しい

大前 探偵っぽい人物が推理ショーをするところを書きたいなとまず思ったんです。探偵って優しいなとずっと思ってて。犯人がやったことを、本人や関係者の前で、犯人の心理や犯行手順を追いながら説明してあげるじゃないですか。それって加害者側の人に「私はあなたの理解者ですよ」って言ってあげてるようなことだなと。犯人は単に捕まるよりも、探偵に推理ショーをしてもらってから捕まったほうが、たぶんその先の人生が豊かなものになるんじゃないかなというふうに考えてて。

高瀬 え~~そんなふうに考えたことなかった。だけど、言われてみれば、あっさり犯人逮捕! って連れていかれるより、「ここであなたは戸惑った、そして……」みたいな感じで謎解きしてもらって、ほかの人にも犯人に何があったか共有してもらったほうが、その後の人生が豊かになると……めっちゃ面白いです。

大前 それで何か事件を起こしたいと思ったんですが、事件は事件だけど、ちょっとネタにできるようなもの、写真に撮ってSNSに上げちゃうくらいの、被害を受けた側も怖いと思いながらもしめしめと思ってしまうようなものが何かないかなと思って、こういう事件にしました。

高瀬 絶妙ですよね。これがもっとおどろおどろしい感じのバッジだったら「え、気持ち悪っ、こわっ」ってなるけど、かわいいチワワのバッジだから。

大前 はじめてのミステリーだったので、すごく難しかったです。編集者さんからのフィードバックで、一つの箇所を直しましょうとなると、それに伴って関係するほかの箇所すべてを直さないといけないので、無限にゲームのデバッグ作業をしてるみたいな感じで(笑)。僕の作品のなかでもいちばん読みやすいと思うんですけど、書くのはいちばん辛かったです。


◆小説が日常に接近する瞬間

高瀬 そうだったんですね! いや、でも予想したのと全然違う作り方でした。チワワが好きなのかなって(笑)。

大前 そういうわけじゃないです(笑)。でも最近なんか、チワワが日常に接近してきてるっていうか。

高瀬 どういうことですか?

大前 昨日美容室に行ったんですけど、別のお客さんがチワワを連れてきていて。

高瀬 美容室のなかにですか?

大前 パーマ当てられながら、机の上にチワワを置いてずっと喋ってて、チワワはこっちをチラチラ見てくるっていう(笑)。
 それだけじゃなくて、その2日前に谷中やなか霊園のあたりを散歩してたんですよ。なかに交番というか駐在所があるんですけど、そこを通りかかったら、机の上にチワワがいて。

高瀬 へっ!?

大前 なんか警察官と見つめ合っていました(笑)。迷子なのかなんなのかよくわかんないんですけど。

高瀬 チワワづいている……。

大前 書いたことでその題材とかが現れるようになることありませんか?

高瀬 あります。あれ怖いですよね。昨年10月に『うるさいこの音の全部』という本を出して、それはゲームセンターで働きながら小説を書いている主人公が、職場で小説を書いていることがバレて大変、みたいな話なんですけど、それを書いたあとに私も職場で身バレしました(笑)。小説のなかで主人公がいろいろあって仕事辞めたいなと思う場面があるんですけど、本が出たあとで、私も仕事を辞めて。書いている時は辞めると思ってなかったんですが。なんかありますよね、出したモチーフが現実に現れるって。私の場合は結局自分が仕事辞めただけじゃんって話なんですけど、チワワは外部の話じゃないですか。

大前 そうですね。

高瀬 引き寄せてるんですね。だってどっちも経験ないですよ、美容室も駐在所も(笑)。

大前 不思議ですよね。だからまた何か起こるんじゃないかなと。


◆友だちって、なんだ?

大前 高瀬さんの『め生える』は真智加と親友のテラの話でもあります。二人の間で、はげている/はげていないの違いでパワーバランスが決まってしまって、そのことをずっと真智加は思い悩んでいますよね。高瀬さんは、登場人物がはっきり自覚しているわけではないけど、ずっと感じているプレッシャーみたいなものを書くのがすごく上手ですよね。自分だったら展開を派手な方、派手な方にもっていってしまう気がするんですけど、高瀬さんはその世界のなかの登場人物たちの、働いて家に帰ってみたいな日常のなかに留まり続けながらずっと面白いというのがすごいなと思っていて。

高瀬 友だちとか友情というのはたぶんまた書くだろうなと思うし、自分のなかで書ききれてないテーマだなと思っています。
 そもそも友だちって難しいなと思っていて。すごい好きな友だちが何人かいるんですよ。大事にしたいし、今後も生きている限り会いたいなと思うんですけど、全然会いたくないときもあったり、遊ぶ約束したんだけどすごくめんどくさいと思ったりとか。行くと結局楽しいんですけど、楽しさとは別にすごく疲れて帰ってくることもある。でも会いたくないわけじゃないし、たまにめっちゃ憎くもなるし、その憎さはその子が何かをしたからじゃなくて自分の内側から出てるなと思ったりして。私が抱えている友情というもののわからなさが作品に出てるかもしれないけど、まだ書ききれてないとも思ってるんですよね。
 大前さんが『チワワ・シンドローム』で書かれたこの友情は結構特殊ですよね。

大前 友情というか支配という感じですよね。

高瀬 弱くて可愛い琴美を、強いミアが「親友だよ」って支配する。だけどこの二人の友情はこの先、形を変えて続いていくという希望が見える話でもあると思います。で、この二人は特殊で支配しすぎですけど、周りを見渡しても、多少なりともそういう要素がある友人関係もあるのかなとは思う。

高瀬 私はいま35歳なんですけど、ここから新しく友情を築くのって、まず家から出ないから人と出会わないし、出会えたとしても継続した関係を結ぶのも難しくて大変だなと。だからこそいまある友情を大事にしたいと思っていて。でもそれも自分勝手だなという反省もあるんです。私の友だちは家からちゃんと出ているはずなので、新しい友だちとの出会いがあって、新しい友情を今後も築けるかもしれないけど、私だけはそこにしがみつこうとしてる。それはその本人を見ないで、「友だちでいる」という形式にしがみついてるんじゃないかとか、思っちゃって。それって支配ではないけど、純粋な友情でもないんじゃないかとか、最近ずっと考えています。

大前 そもそも、友だちってどうやって作ればいいと思いますか? 考えてみたら友だちっていないなと思って。高校の友だちは大学に上がるタイミングでもう連絡を取らなくなったし、大学の友だちは卒業するタイミングで全く連絡を取らなくなったしという感じで。ないものねだりなだけだと思うんですけど、結局友だちづきあいがあったらあったで、僕は絶対めんどくさいなと思っちゃう。でも友だちと遊ぶみたいなことがいまほとんどなくて、老後とかやばいんじゃないかってすごい思ってて(笑)。

高瀬 そんな、まだまだ先ですけど(笑)。と笑いつつ、でもわかる……。

大前 でも大人の、特に男性が、誰かと友だちになるってどうしたらいいんだろうって思うんですよね。職業も小説家っていうちょっと変な職業で、小説書いてますとか言うと「こういうアイデアどうですか」ってノリノリで言われたり、「自分は学生時代作文とか全然ダメでした」と言って接点を作ろうとしてくれたりするんですけど、そういうのに対するうまい返し方がいつもわからなくて、「へえ、そうですか」で終わってしまって心苦しいんです。

高瀬 私は小説家になって友だちが増えたんですよね。10年くらいずっと増えも減りもしなかったんですけど、小説家になってから小説家の友だちが増えました。でも友だちと思ってるのは私だけかもしれない、といま喋ってて不安になったんですけど……向こうからしたらただの同業者なのかもしれないですよね……。頻繁に飲みにいくとかではなくて、LINEで「小説書けた?」「書けてない」「私も」みたいな感じなんで。じゃあ月一でお茶してたら友だちだと思いますか?

大前 それは友だちだと思います。

高瀬 自分から言ってみて、そんな人ひとりもいないなってなっちゃいましたけど(笑)。では、半年に一回お茶してたら友だちですか?

大前 そうですね、それも友だちなんじゃないですかね……たぶん。なんかわかんなくなってきちゃった。

高瀬 友だち同士ってこういう条件を設けないですよね、きっと。友だちの作り方、教えてほしいですよね。

大前 そうですよね。

高瀬 教えてもらったら実践します?

大前 それはちょっとわかんないですね(笑)。

一同 (笑)

大前 僕がお酒を飲めないっていうのも大きいのかなって思ってて、あることないこと適当に言える相手がいたらいいなと思います。

高瀬 お酒が飲めなくてもお酒の場はどうですか?

大前 いや、うるさいなって(笑)。

高瀬 それなら昼間にお茶とか散歩するとかがいいですよね。いっしょに散歩するのはめっちゃ友だちじゃないですか。

——お二人に提案なんですけど、大前さんがいつも歩かれるコースを高瀬さんもいっしょに歩かれたらどうですか。

高瀬 いっしょに!? いま一日50歩くらいしか歩いてないんですが(笑)。

大前 歩きましょう歩きましょう。

高瀬 1時間はきついんで15分から始めたい……なんならゴールだけごいっしょして、お茶したいです。

大前 ゴ、ゴールに高瀬さんがいるんですか?(笑)

高瀬 ゴールまで電車で向かってお茶すれば、歩かずに済む(笑)。カフェ集合にしましょう!

大前 それは散歩ではないですね(笑)。でも近くに素晴らしいスーパーがあるので、紹介します。ディズニーランドみたいなスーパーで。

高瀬 えっ、どういうことですか!?

大前 なんか、あるんで、良かったら(笑)。

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 ここからは、専業作家になったばかりの高瀬さんが、大前さんに「ガチ相談」。作家として生き残るにはどうすれば……!?

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