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冲方丁「マイ・リトル・ジェダイ」#014

WEB別冊文藝春秋

交通事故で昏睡状態になってしまった息子のため、
オンラインゲームで世界一を目指すノブ。
ついにあの有名プレイヤーが協力してくれることとなり……

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第六章 ヒーローの選択 Find your way

《ハロー、みなさん。マシュー・コヒーです》
 その声で、通信にどよめきが起こった。みな彼が来るとわかっていたのだが、やはり実際に純白のソードマンがゲーム・ロビーに出現したことに驚嘆したようだ。
 のぶみつは何よりそのIDに喜びと頼もしさを覚えた。
『M.C.WHITE CHAMELEON12(12)』
 チーム最後の枠である十二人目として参加する意思を、IDではっきり示してくれているのだ。暢光たちも、IDの末尾を『(12)』にすることで歓迎の気持ちを表しており、さっそくりんいちろうたつくん、が、物怖じせずに声を返した。
《ハロー、マシューさん!》
《ハロー!》
《ハロハロハロー!》
 マシューがハイタッチのECを三人と交わすと、ソードマン特有の騎士っぽいお辞儀のECをしてみせた。
《またみなさんとプレイすることができて嬉しく思います》
 が、保護者代表として、きびきびと挨拶を返した。
《こちらこそ、息子のチームに参加して下さることに感謝します、ミスター・コヒー》
 続いてさんが浮き浮きと「やったね」のECを連発した。
《やっぱりゲームでもカッコイイのねえ。えっと、ウェルカム、ベリー、ウェルカム》
 それからよしひとくん、さん、ゆうすけが、
《ハロー、ヨッシーです。チャンピオンとプレイできることを光栄に思います》
《ミッキスです。ぜひ私たちのコーチになって下さい》
《ユースフルです。先日のあなたのプレイはとても参考になりました》
 と順番に声を上げた。善仁くんと美香さんは英文科とのことで、積極的に英語でのやり取りに加わってくれそうだ。裕介のほうは、とう先生いわく「日本語が通じない連中とも一緒にを働いていた」らしく、過去の罪はともかく、会話に問題はなさそうだった。
 かと思うとじようまえが、
《あなたはチャンピオンだ! すごい! 私も一緒にゲームをプレイ! 楽しい!》
 などとノイズ混じりの電子音声を放った。
《うーむ。海外旅行用の通訳機を買ったが、やはり時間差が生じて喋りにくいな》
 日本語でぼやく錠前へ、武藤先生が笑いを嚙み殺しながら言った。
《錠前先生、私が通訳しますよ。亜夕美さんと芙美子さんも、訊きたいことがあれば私が訊きましょう。リンくんたちはノブくんに任せていいんだな?》
「あ、はい。あと、全員へのアナウンスは、おれがやります」
 暢光が日本語で応じ、それから英語でマシューに尋ねた。
「マシュー、さっそくで恐縮ですが、今日はどんなトレーニングをするのか教えてもらえますか?」
 マシューが、「やったね」のECを芙美子さんだけでなくみなに披露して言った。
《やる気に満ちていますね。良いことです。ではみなさんに、コントローラーを置いて立つよう伝えて下さい》
「え、立つ?」
《はい。ウォーミングアップをします。準備運動はとても大事です。目と手をつなぐのは? 脳です。脳が必要とするのは血液です。血が脳にきちんと流れるよう、全身の筋肉を温めておきましょう》
「なるほど。わかりました」
 暢光が伝えると、《へえー》《準備運動するんですね》《なになに、何すんの?》と凜一郎、達雄くん、明香里が興味津々となった。
「ちょっと待って、訊くから——マシュー、どんな運動をすればいいですか?」
《みなさんが習慣的に行っているものであれば、なんでも》
《となると、ラジオ体操かな》
 武藤先生が日本語で呟くと、マシューがすかさず聞き取って言った。
《レイディオ・タイソーですね。私もYouTubeで様々な健康体操を見て実践していますが、日本のタイソーはとても良いと思います。全員でそれをやりましょう》
 そんなわけで、暢光がYouTubeのラジオ体操の動画を再生し、みなで共有してやることをアナウンスした。
《おれはどうしよう》
 凜一郎が困ったように言って「どうする?」のECをした。それだけでマシューには通じたらしく、
《リンクンは体を動かすイメージをするのが良いと思います。スリーピング・ピープルであってもイメージの力で体に影響を与えることができると聞いています》
 その言葉を、暢光は半信半疑ながら、そのまま凜一郎に伝えた。
《わかった。マシューさんって何でも知ってるんだね》
「うん、そうだな」
 暢光はスピリチュアル方面の話題を避け、それだけを言った。
「では始めましょう。動画を再生します」
 ラジオ体操の動画が始まり、暢光はコントローラーを卓袱ちやぶだいに置いて立ち上がった。
 ゲーム画面を放っておいて体を動かすのは妙な感じがしたが、メンバーには好評で、《健康に良いわねえ》《ゲームは腰が痛くなりますからな》と特に芙美子さんや武藤先生は歓迎している様子だ。
 休憩が終わると、マシューが「OK」のECをして言った。
《大変良い運動です。ぜひプレイの前とインターバルでやりましょう。では、次はしっかりとプレイするためのポジショニングをしましょう》
 マシューのアバターの横にウィンドウが現れ、画像が表示された。マシューがコントローラーを握って座っている姿を正面と横から撮ったものだ。
《コントローラーと顔の位置を、体の中心の縦軸に、きちんと合わせましょう。力まずに、かといってリラックスしすぎないようにね。画面の一点を見つめず、全体を眺めるようにして下さい。つい姿勢が前のめりになって両肘で上体を支えるプレイヤーが多いのですが、それでは視野も狭くなり、反応も遅くなります。ゲームのアバターと同じようにゲーム世界に立っている気持ちでプレイしましょう》
《プロは違うわね》
 亜夕美が感心した。これまた大人たちにも好評で、凜一郎、達雄くん、明香里も、面白がって真似をし、
《お茶やなんかの習い事みたい。上手くやれそう》
《形から入るというやつですな。確かにもう上達した気がしますぞ》
 芙美子さんと錠前が、まだ何もしていないうちから上機嫌になって言った。
《では続いて、こちらを見て下さい》
 マシューが言った。自身の画像が消え、『☆ ★』という記号が左右に並んで表示された。
《右目で左の白星を見つめ、画面に顔を近づけていって下さい。右の黒星が消える瞬間があると思います》
 暢光がマシューの言葉をアナウンスすると、いっとき誰もが沈黙した。やがて、《あっ、消えた!》と達雄くんが声を上げ、ついで次々に同様の声が飛び交った。
《あー、なんとなく消えたかも。これって、なんで?》
 凜一郎が訊いた。暢光がマシューに尋ねると、
《マリオットもうてんです》
 という答えが返ってきた。
《眼の内側の鼻に近い辺りに、神経や血管が出入りしている場所があります。そこには光を感じる細胞がありませんから、脳に視覚情報を届けることができず、視界から消えてしまうのです。ゲーム画面を食い入るように見つめ、顔を近づけすぎると、この盲点の影響が現れ、見えない箇所が生じてしまうのです。もちろん一点に集中しすぎれば、意識が他に向かなくなり、別の意味で盲点が増えていきます》
 へえー、おお、なるほど、とみなの感心する声が起こり、《そういえば検査であったな。何カ所か消えるやつが》と呟く錠前に、《盲点以外で消えたら緑内障です》と亜夕美がすかさず指摘した。
「みな理解しました、マシュー」
 暢光が告げると、《では次にこれを》と言ってマシューがまた画面を変えた。
 ゲームのキャプチャー画像で、縦横二本ずつの白い線で九個の長方形に分割されており、中央の長方形の角に丸い点がついている。
《三分割法という、視線を誘導するカメラの撮影法です。3×3のブロックに分かれていますが、重要なのは中央のブロックと、その四つの角です。被写体がこれらの角のどこかに配置されることで、人の注意を引く、上手な画像を配信することができます》
 急に配信の話になった。暢光は戸惑いつつも、そのままアナウンスした。
《人の注意を引くわけですから、もちろんプレイ中の画面の見方にも応用できます。大事なことは、画面の中央を見つめ続けないこと。それよりも、中央のブロックの角に注意を払うことで、動くものを目でとらえやすくなります。逆に言うと、人間は動くものをこのブロックの角がある辺りで最も素早く認識するのです》
 この言葉を伝えると、果たしてまた感心の声がいくつも起こった。
《縦横を四分割する方法もありますが、私は三分割で十分だと思います。経験上、このブロックを意識すると、エイムと攻撃回避の両方が上達しやすくなります。猫ではなく鼠に、ライオンではなくカモシカになるのです》
 暢光はその言葉を伝えつつ、
「猫ではなく……というのは?」
 と疑問を返した。
捕食者プレデターである肉食獣が視線を一点に集中していい理由は、敵がいないからです。脅威を恐れる必要がなく、獲物に逃げられることだけが心配の種なのです。しかしゲームでは誰もがであり捕食者プレデターであるのですから、視野が広く、いつでも攻撃をかわす用意のあるのほうが有利となります》
 へえ、そんなこと考えたこともなかったぞ、と思いながら、暢光はみなに伝えた。
《へえー、だからカメレオンなの?》
 凜一郎が嬉々として訊いた。暢光がその点について尋ねると、マシューが「そう、それそれ」のECをしてみせた。
《もちろん、カメレオンのようにものを見ることは人間にはできません。ただ、全てに気を配ることを自分に意識させるのには有用なIDですね》
 いろいろ考えてるんだなあ。暢光は凜一郎とみなに伝え、
「よくわかったな、リン」
 息子の気付きにも感心した。
《おれもカメレオンに名前を変えようかな》
 それじゃチーム・カメレオンになっちゃうぞ、と暢光は返そうとしたが、その前にマシューが言った。
《さっそく実践しましょう。私のトレーニング・マップに来て下さい》
 オリジナル・マップへの招待が全員に送られ、凜一郎と達雄くんが歓声を上げた。
《マシューさんのマップだ!》
《行こう、行こう!》
 あっという間に二人ともゲーム・ロビーから姿を消し、《ぐははは、待てー》と笑いながら明香里が続いた。
「みなさん、マシューさんのマップに移動して下さい。招待ボタンはわかりますか?」
 暢光が気を遣うまでもなく、みな凜一郎たちを追って移動した。どのマップで合流するか指示するだけでも大変だった頃とは雲泥の差だ。
 最後に暢光が移動すると、そこはバトルロイヤル・モードのサーキットエリアを土台に、障害物競走のコースと広々とした射撃場を併設した、近未来SF西部劇カーレース場といった感じのマップだった。
「よくこんな風に綺麗に作れますね」
 暢光は思わず辺りを見回して言った。
《よければこつを教えます。その前に、みなさんを射撃場に案内しますので、ついてくるよう伝えて下さい》
 あちこち走り回って楽しんでいた凜一郎たち三人が、真っ先に純白のソードマンの後を追って、ゴルフの打ちっ放しみたいな射撃場に入った。暢光たち残りの面々もそうしたところ、いきなり縦横の線が現れて視界を九個の長方形に分割した。
《先ほど説明したブロックの線が見えますか? 線は消すこともできます。射撃位置につくと、武器とターゲットの選択ができますので、やってみて下さい》
 暢光たちは、横一列になって射撃位置についた。床の模様やSFチックなオブジェの他、可愛い椅子やテーブルで区切られた、ボーリング場のとうてきスペースに似ており、全員同時に練習してもまだスペースに余裕があった。
 暢光が位置につくと、武器とターゲットの一覧が表示されたので、アサルトライフルと、カボチャのターゲットのレベル1を選択した。
 暢光のノーマル・タイプのアバターの手にアサルトライフルが、射撃場の床にでかいカボチャが現れた。中央のブロックからはみ出るほど大きいターゲットだ。何も考えずに撃つと、ぱっとカボチャが弾けて『NICE!』と誉められた。
 さすがにレベルが低すぎると思ったら、ひと回り小さなカボチャが二つ現れた。それらを撃つと、さらに小さなカボチャが三つ現れた。四つになるとそのうち二つが宙に浮かんだ。
 そうしてカボチャの数を増やしていくうち、自分の視界が広がっていくのを実感した。中央のブロックの真ん中から始まって、外側へとターゲットが広がるからだ。カボチャは十六個で増殖をやめたが、そのときには中央ブロックの内側と外側を、同時にとらえるようになっていた。たったそれだけで、画面全体に気を配るということがどういうことか、感覚的に理解できたのだ。
《すごい! めっちゃエイムしやすい!》
 凜一郎が喜び、達雄くんと明香里とともに歓声を上げながら激しく動くターゲットを撃ちまくっている。
《そっか。ターゲットで視線を誘導してくれてるんだ》
《トッププレイヤーって、こんな風に画面を見てるの? ひゃあ、忙しくて大変》
 善仁くんと美香さんも、動くターゲットを次々に撃っており、気づけばレベル1の動かないものを撃っているのは暢光だけになっていた。
 暢光は、隣の裕介が早くもレベル4をこなしているのを見て、自分も武器とターゲットのレベルを同じだけ上げた。高速で画面じゅうを動き回るカボチャと、強力だが反動でエイムがぶれる武器に面食らい、慌ててレベル2に戻した。
 跳び回るカボチャを地道に撃ち、命中させると数が増え、動きが複雑になっていった。そしてある時点で、エイムを素早くかわそうとするプレイヤーに上手くヘッドショットを撃ち込む練習なのだということが、これまた感覚的に理解できた。
 つい、中央と周囲の九つのブロックのどれかに視線を固定し、自分から死角を作ってしまわないよう、ターゲットが注意を引いてくれるのだ。そして中央のブロックの四つの角が、エイムすべき位置やタイミングをつかませてくれる。
 ちょっとやっただけで、上手くなってないか? 暢光は、今まで、たださまよわせがちだった自分の視線が、意味あるものになっていくことに感動を覚えた。
 加えてマシューがみなの後ろを行ったり来たりして、アドバイスを与えてくれた。
《画面の中心に向けがちの意識を、大きく広げましょう。中央のブロックの角が自然と画面に浮かぶようになるよう、目に焼きつけて。ブロックが、画面内で動くものの角度と速度を教えてくれます》
 暢光がみなにアナウンスするだけでなく、
《アユミサン、スナイパーライフルはぎりぎりまでスコープを覗かず、しっかり角度をつかんでから狙いましょう》
《フーミンサンは、自分に近い大きなターゲットから正確にエイムするといいですよ》
《ドクターTサン、右を見たら左、左を見たら右です》
 亜夕美、芙美子さん、錠前への個別のアドバイスを、武藤先生が通訳した。
 暢光は、順調に何かをこなしている気にさせられて楽しくなった。武器も何種類か試したところで、マシューが言った。
《みなさん、手を止めて下さい。エイムの練習の仕方はわかりましたね。いつでもこのマップに来て練習して頂ければと思います。では次の練習場に行きましょう》
 マシューの先導で射撃場から出て、『バンプ・ショット』という看板がついた大きなホテルへ入っていった。
 ロビーに入って受付カウンターに近づくと、射撃場と同じように武器とターゲットの選択コマンドが現れた。
《視線と同じく重要なのは音です。プレイヤーが立てる音が、互いの距離や位置を教えてくれます。ぜひ性能の良い、ご自分に合ったヘッドホンやイヤホンを使用して下さい。壁や天井や床の向こうにいるプレイヤーの位置を正確につかみ、バンプ・ショットを——出会い頭の撃ち合いを制するのです》
 このときチームでヘッドホンやイヤホンを使っていたのは、暢光、達雄くん、裕介、錠前だけだった。凜一郎はヘッドホンをしているようにクリアに聞こえると言い、明香里、善仁くん、美香さんは、さっそく探してきて装着した。
《ヘッドホンをしていない方も、ぜひここでの練習を経験してみて下さい》
 マシューが言い、みなめいめい、十二階建てのホテル内をうろうろした。
 ターゲットはカカシやロボットなど数種類から選べたが、その姿が見えるのは遭遇したときだけだ。自分たちの足音を追って、どこからともなくターゲットの足音が近づいてくるモードと、遠ざかるターゲットを追いかけるモードがあった。どちらもはじめはターゲットの姿が見えず、緊張感たっぷりの練習場だ。
《音にも意味があるのね。お母さん、明日、買って来てもらえる?》
《どんなの買えばいい? なるべくコードの長いやつかねえ。ラジオのとか》
《コードレスのほうが良いよ、芙美子さん。ラジオのイヤホンは片耳しかないからきっと上手く聞こえないぞ》
 亜夕美、芙美子さん、武藤先生のそんなやり取りをよそに、見えざるターゲットとの鬼ごっこに精を出す面々へ、マシューが言った。
《目と耳をフルに使うことがエイムの基本です。では最後にタイムレース場へ行きます》
 みなマシューについてホテルの外へ出て移動した。
 障害物だらけの陸上競技場といった感じのその場所では、自分たちも攻撃のターゲットにされる。至るところに武器を持ったロボットがいてプレイヤーを狙って攻撃してくるのだ。素早く攻撃をかわし、あるいは壁を建設して防ぎながら、ロボットを撃ち倒し、障害物を越えてタイムリミット内にゴールインできるよう練習するのだとマシューが説明した。
《ここでも画面にブロックの線を表示することができます。ジャンプしたときに障害物を越えられるか、攻撃を避けられるかなど、ブロックの線が適切な距離感をつかむ助けになります》
 てっきりそのタイムレース場に入るのかと思ったが、マシューはそうしなかった。
《こちらは建設のベーシックができた方からにしましょう。ベーシックとは、攻撃を防ぎ、かわし、反撃するという動作を、無意識にできるよう、操作手順を手に覚えさせることです。楽器を弾くために指の運びを覚えるようにね。こちらで、何種類かのベーシックを身につけることができます》
 マシューがみなをつれてタイムレース場の横の、『ベーシック』という看板がある、サッカーフィールドのような場所に入った。
 するとベーシック1から5までのどれかを選ぶコマンドが現れた。暢光が試しにベーシック1を選ぶと、各種のボタンと移動キーの入力指示が、カラオケの歌詞のように画面下部に現れた。その通りに入力するだけで、たとえばジャンプしつつ階段を作って攻撃を防ぎながら、相手より高い位置から反撃する、という一連の動作が可能だった。
 やってみると、正しくできたところだけ入力指示の色が変わるので、どこで失敗したかも一目瞭然だった。
《このマップで練習するのとしないのとじゃ、ポイントの稼ぎが全然変わるぞ》
 裕介が感心するというより、完璧すぎて圧倒されたというように呟いた。
《みなさん、いったん出て下さい》
 マシューの指示に従って、みなフィールドから出て、次の指示を待った。
《マップの説明は以上です。最後に、とても重要なことを教えます。みなさんの中には、プレイ動画を保存している方がいると思います。自分たちのプレイを見直すことは有意義ですが、一つ気をつけて下さい。上手く行かなかったときのプレイは見ずに削除すること。いいですか?》
 暢光は意外に思ったが、疑問の声を上げたのは裕介だった。
《上手く行ったプレイだけ見ていたら、ミスに気づけないのでは?》
 暢光が通訳すると、うんうん、だよね、と凜一郎や達雄くんだけでなく亜夕美たちも、裕介の疑問に同意するような呟きを発した。
 だがマシューは、「ノー、ノー、間違ってるよ」のECをしてみせてこう告げた。
《そう思ってしまうのもわかります。ですが私の経験上、失敗した自分のプレイを繰り返し見るのは、まったく逆効果です。先ほどのブロックの線のように、ミスしたときの操作が心に焼きつき、無意識に同じことを繰り返してしまうようになるのです。いったんそうなってしまうと、修正に大変苦労します》
 確信のこもった言葉に、みなが、おー、へえ、なるほど、アイ・シー、などと感心して声を返した。
《ですから、繰り返し見るとしたら、これが今の自分のベストプレイだと思える動画にして下さい。その方がモチベーションも上がりますしね。さて、このマップでの練習は一人でもできます。この後は、こうしてチームのメンバーが揃っているのですから、ぜひ先日のように、みなさんとバトルロイヤルでプレイしたいと思いますが、いかがでしょうか?》

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