
冲方丁「マイ・リトル・ジェダイ」#020(最終回)
ついにたどり着いた世界大会の最終ゲーム。
チーム・リンの勝敗の行方はいかに!?
そして、リンは昏睡状態から目を覚ますことができるのか…?
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これまで以上に華々しいレーザー光線、花火、スモーク、音楽、そしてムービーとともに、アナウンスが猛然と雄叫びを上げて告げた。「いィイイイまァアアア! 伝説が生まれるときが来たァアアア! トゥルゥウウウウ、ファイナァアル、エキジビション、ロイヤルバトル、ラストゲェエエエム!」
プレイヤーたちのブースをびりびり震わせるほどの音声と大歓声とともに、頭上のモニターが、最終ゲーム参加者五十人のIDと順位、そしてアバターを次々に映していった。「見よォオオオ! ここに選ばれしィイイイ、五十人のォオオ、英雄たちだァアア!」
マシューのソードマンが映されると、ものすごい拍手とともに、総合ポイントトップを称える「マシュー! マシュー! マシュー!」というコールが起こった。かと思うと、二位のライダーへの「リンギングベル!」という歓声が湧き、八位につけた暢光のノーマルへの「ダディ・ノォオオブ!」という歓声も起こった。
暢光は、ラジオ体操も済ませ、しっかりと落ち着いてコントローラーを握り、ゲーム・ロビー内で凜一郎と並んで立ち、巨大な扉が現れるのを見守っている。
五十人分のアバターが映されてのち、頭上のモニターがゲーム・ロビーの様子をとらえた。扉がゆっくりと開かれ、溢れ出す光が、生き残った五十人を呑み込んでいった。
ファイブからのカウントダウンが始まった。客席にいる誰もが拳を振り上げて唱和していた。裕介もカウントダウンに参加し、ツー、と口にしながら暢光の肩を後ろから、ぐっとつかんで、すぐに離した。ワン、と会場に声が響き渡った。
「ゲエエエムスタアアアトオオオオ!」アナウンスの大絶叫とともに、マップの上空に巨大な扉が現れ、プレイヤーたちを最後の戦いの場へと送り出した。
暢光と凜一郎は、まっしぐらにサーキットエリアへ下降していき、ピットインと三つのガレージが設けられたサーキット・コースの一角に舞い降りた。
二人で「ハイタッチ!」と「行け行け!」のECを交わし、十分にリラックスした状態で、手分けして武器、アイテム、建設素材を集めて回った。
《ワイヤーガン、ワイヤーガン、ワイヤーガン》と凜一郎が唱えたが、残念ながらその一角で見つけることはできなかった。
最高レベルのショットガンとアサルトライフルが見つかったが、こういうときに限ってサブマシンガンがない。と思ったら、暢光は、解体中の車の中にそれがあるのを見つけ、急いで車体を壊して手に入れた。「レベル五のサブあったぞ!」
《ボムと回復アイテム、こっちに沢山ある!》凜一郎が言った。
暢光は壁を壊して、凜一郎がいる場所に行き、壊した棚から転がり出てきたらしいボムと回復アイテムを拾いつつ、サブマシンガンを凜一郎に渡した。
「アサルトライフルは? 中距離で必要だろ」
《うん。ワイヤーガンみつけたら交換するからちょうだい》
暢光は最高レベルのショットガン、アサルトライフル、サブマシンガンを渡し、代わりに凜一郎が持っていたショットガンを得た。また、室内のロッカーを片端から壊していったところ、建設素材とともに武器がごろごろ出てきた。暢光は中程度のレベルのアサルトライフルとサブマシンガンを拾い、早くも必要な武器を揃え終えた。
ついで、乗物を探しに行ったピットインで、トランポリンのトラップを二つも見つけ、二人で一つずつ持つことにした。「これでミスト負けは避けられる。あ、ワイヤーガン持ってる人を見つけたら、これで跳んで行くか」
《オッケー》
「残り四十五人」ふいに裕介が言った。「もう五人消えた。ソロから倒されてる」
「序盤から全力だね」暢光は、自分たちとてそうだ、という思いを込めてつぶやき、壁を壊したところで、乗物を見つけた。「あった!」
凜一郎が好きな、ロケットカーだ。幸先の良さを告げてくれるような乗物に凜一郎が駆け寄り、「やったね!」のECを披露してから運転席に乗り込んだ。嬉々とする凜一郎の様子に、どこからか応援の声と拍手が飛んできた。
暢光が後部座席に乗ってアサルトライフルを構え、凜一郎が得意のロケットカーを猛発進させてピットインから飛び出した。センターシティ・エリアへ向かう丘をのぼるや、裕介が声を上げた。
「ワイヤーガンを持ってるのが二人! サイバーエリアの西側の駅! 両方、ガーディアンだ!」
《よっしゃー!》凜一郎がさっとロケットカーを右折させ、森の城エリアへ走らせた。そのさらに向こうがサイバーエリアだ。とはいえ森の中を乗物で走れば動けなくなるだけなので、木々が生い茂る一帯の手前で停まった。さっと凜一郎が運転席で立ち上がり、トランポリンをさっそく設置した。
凜一郎は再びロケットカーの運転席に座ると、Uターンして助走に必要な距離を取った。そこでまた車体をぐるりと回し、トランポリンへ鼻先を向けた。凜一郎が何をする気か察した観客の一部が、「行け行け!」というECを真似て歓声を上げた。
《行くよー》凜一郎がロケットカーをまた猛発進させ、操作がひときわ難しいそれを、ぴたりと真っ直ぐ走らせた。ロケットカーは最大スピードでトランポリンに跳び込み、ぽよよーん! と盛大な音を立てて上空へ飛び出し、ロケットそのもののように、森をやすやすと横断していった。
これだけわかりやすい軌道を描いて飛んでいると、狙ってくるプレイヤーがいないとも限らない。暢光は用心して眼下の森のあちこちを警戒したが、狙撃してくる相手はいなかった。
ロケットカーは完全には森の城エリアを越えられなかったが、凜一郎は上手く開けた場所に降りると、残りの木々の間を巧みに走り抜け、サイバーエリアの道路に乗り入れることに成功した。
観客の一部が喜びの声を上げるのが聞こえたが、問題はこれからだった。
「駅にいるワイヤーガン持ちのガーディアン二人、ライダー二人とバトル中」裕介が言った。「世界四位のノーマル二人組も駅に向かってる。気をつけろ」
空中戦が得意な世界四位のノーマル組も、ワイヤーガンが見つからず、付き添いの人間にナビゲーションしてもらっているのだ。乱戦状態になることが予想されたが、凜一郎は臆せず《りょーかい!》と返し、ロケットカーを左折させ、駅へ向かう幹線道路を突っ走った。
高架線路の駅へ続く階段が現れた。凜一郎が見事なブレーキングをみせ、ロケットカーをぴたっと階段の前で停めた。
暢光は凜一郎とともに乗物を降り、アサルトライフルを持って階段を駆け上がった。誰かが跳び込んできたら、すぐさまショットガンに切り替えて応戦する用意を怠らず、階段をのぼりきった。
ファイナルバトルがいきなり始まったのかと思うほど、早くも縦に伸びた足場が林立し、複数のプレイヤーがバトルを繰り広げていた。足場と建物の間を、ガーディアンの二人がワイヤーガンで跳び渡り、ライダー二人とノーマル二人が攻め立てている。
凜一郎もすぐさま足場を作り上げ、バトルが行われている高所へ向かった。遅れて暢光もサイバーチックな建物の壁に階段を設けてのぼることで、凜一郎を援護射撃できるようにした。
暢光と凜一郎まで現れたことで、ガーディアン二人は圧倒的劣勢であることと、何がその状況を招いているかを悟ったらしい。なんとワイヤーガンを二つとも駅下の道路へ投げ捨てるや、足場を作って、その道路沿いにあるビルの屋上へ位置した。
こうしてガーディアン二人は、追ってくる者、あるいはワイヤーガンを拾いに行く者、どちらもスナイパーライフルで狙撃できる態勢を一瞬で手に入れていた。さらに集団に攻められた場合は、逃げ去ることもできる。さすが、トップ五十に入るプレイヤーにふさわしい機転の利かせ方だった。
《取りに行くね!》だが凜一郎の決断は誰よりも速く、下りの階段を作って真っ直ぐ道路へ駆け下りていった。
「おれが援護する! 行け!」暢光は、ビル屋上のガーディアンへアサルトライフルを連射して牽制した。すぐにガーディアンの一人が撃ってきたが、暢光は壁を作ったり、階段の上を動き回ったりして、狙い撃ちされることを防ぎつつ、素早く撃ち続けた。
ノーマル二人も同様に、一人がワイヤーガンを取りに下へ向かい、一人が高所に位置したままガーディアンを牽制するための射撃を行った。
ライダーたちは遅れて二人とも下方へ向かいながら、先行する凜一郎とノーマルを狙って撃った。だが凜一郎もノーマルも壁を張り巡らせて防御に余念がなく、ライダーたちの銃撃をきっちり防いでいる。
ガーディアン二人も、暢光ともう一人のノーマルが放つ弾幕の合間を縫って、凜一郎とノーマルを狙撃したが、壁に防がれるばかりだった。ガーディアン二人はそれなら仕方ないとばかりに、追いかけて銃撃することに意識を奪われて防御が疎かなライダー二人を狙って、次々に撃った。
暢光は、ガーディアン二人が狙いを変えたのを見て取るや、凜一郎の方へ向かうライダーを狙って撃った。ノーマルもほぼ同時にそうしていた。
巡り巡って、最も隙を見せたライダー二人が、他の四人から集中砲火を受けてダメージを食らい、道路へ降りる途中で慌てて壁を張り巡らせた。
そこで、ワイヤーがガーディアン二人のいるビルの壁面へ放たれ、颯爽と凜一郎が宙へ躍り出た。続けてノーマルの一人が別のビルにワイヤーを放って宙へ跳んだ。
暢光はすぐに最も脅威となるガーディアン二人へ撃ちかけて牽制を再開した。ガーディアンの一人が被弾して後ずさって姿を消し、もう一人が撃ち返してきた。そこへ同様に狙いを戻したノーマルが撃ち、もう一人のガーディアンもダメージを受けて退いた。
下方では体力を回復したライダー二人が、状況を把握するなり足場を作って再び高所を目指し始めた。
八人が入り乱れてのバトルだが、このとき誰が誰を狙うべきかは、自ずと明らかだ。
暢光は階段を作ってさらに高所へ向かい、ビルの屋上を見下ろせる位置にまで来ると、素早く足場を作って、ライダー二人の真上に出た。
そして、また補給できることを願いつつ、ボムを二つ投げ放った。
ガーディアン二人が回復のために退いた隙を突いて、しっかり高所を取りにいくとともに、誰よりも下方に位置していることから、最も狙いやすい相手を狙ったのだ。
ノーマルも同様の判断を示した。高所に出ながら、こちらは吸着ボムを下方へいくつも投げ放っていた。最初にぶつかったものにくっついて炸裂するボムだ。ライダー二人が作る階段の前後に吸着ボムがぴたぴたとくっつき、先に暢光が投げ放ったボムとともに、次々に爆発した。
ライダー二人は爆発のダメージを受けながら、階段の崩壊に伴って落下し、地面に激突した。どちらも辛うじて体力ゼロにはならず、壁や天井を作って身を守りながら、走ってすぐ近くの建物へ逃げ込もうとした。
だがワイヤーで跳び回る凜一郎と、もう一人のノーマルが、ライダー二人の頭上を越えて建物の前に降り立ち、退路を奪った。そしてその上で、凜一郎もノーマルも情け容赦なくショットガンの一撃を放った。散弾を浴びたライダー二人は、体力ゼロに、ついでゲームオーバーになってアイテムをばらまいた。