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【㊗発売即重版!】ピアニスト・藤田真央さん初著作『指先から旅をする』

 ピアニスト・藤田真央さんによるエッセイ&語り下ろし連載「指先から旅をする」がこのたび本になりました。 弱冠24歳にして「世界のMAO」に 2019年、20歳で世界3大ピアノコンクールのひとつ、チャイコフスキー国際コンクールで第2位入賞。以降、世界のマエストロからラブコールを受け、数々の名門オーケストラとの共演を実現させてきた藤田さん。 現在はベルリンに拠点を移し、ヴェルビエ音楽祭、ルツェルン音楽祭といった欧州最高峰の舞台で観客を熱狂させています。 エッセイ&語り下ろし

「試されるのは、家族です」熾烈で過酷な〝小学校受験〟の世界――外山薫『君の背中に見た夢は』インタビュー

 デビュー作『息が詰まるようなこの場所で』で、東京のタワーマンションに住む人々の焦燥や葛藤を描いた外山薫さん。第二作となる最新刊『君の背中に見た夢は』で挑んだのは、いわゆる〝お受験〟——小学校受験だ。 「かつて小学校受験というと、専業主婦の世界の話という印象が強かったように思います。共働き家庭は、中学校受験が主流でした。私の家庭も共働きで子どもがいますが、小学校受験という言葉こそ知っているものの、別世界というか、自分には関係のない話だと思ってきました。しかし、数年前から、周

大木亜希子「マイ・ディア・キッチン」第4話 料理監修:今井真実

第四話「そろそろ、レストランの営業を再開しようと思うんだ」  朝の空気を取り込むためリビングの窓を開けていると、木製の椅子に腰をかけた天堂さんがそう告げた。澄んだ風が部屋中に流れ込み、彼がクシャミをひとつする。 「寒いですよね。すみません」  慌てて開けたばかりの窓を閉じると、彼はコーヒーをひとくち啜り、「大丈夫。花粉の仕業かも。もうすっかりと春だねぇ」と言って立ち上がり、窓の外に目をやった。視線をたどると、向かいの家の庭に梅が咲いている。水彩画のような淡いピンク色が美しく、

死と向き合い続けた日々の記憶を辿って――『ナースの卯月に視えるもの』ができるまで|秋谷りんこ

 私は、二十代から三十代にかけて十三年ほど看護師として働いていました。初めて患者さんの死と向き合ったのは、看護学生のときです。看護学部では座学のほかに病院実習があり、学生は一人ずつ患者さんを担当し、日々関わりながら学びを深めます。  ある日病院に行くと、実習担当の看護師さんが私たち学生を集めました。 「つらいことをお知らせするけど……〇〇さんが昨日の夜に急変して、亡くなりました」     それは私の担当患者さんでした。昨日まで一緒に過ごしていた患者さんが、今日にはもういない。

「看護の希望に光を当てたい」――『ナースの卯月に視えるもの』刊行記念エッセイ|秋谷りんこ

 看護師をしていた時、患者さんとのコミュニケーションはとても大切なケアの一つだった。声かけ、傾聴、共感。どの医療従事者よりも患者さんと過ごす時間の長い仕事だからこそ、看護師の言葉は、患者さんへの影響が大きい。患者さんから「秋谷さんに励ましてもらったので治療も頑張れた」「『なんでも言ってくださいね』という一言で心が軽くなった」などと言っていただいた時は、自分の伝えたいことがまっすぐ伝わった気がして嬉しかったし、ホッとした。ご家族に「今日はお風呂に入りましたよ」といった細かい報告

5/8発売決定!『ナースの卯月に視えるもの』第一話全文無料公開!

1 深い眠りについたとしても  夜の長期療養型病棟は、静かだ。四十床あるこの病棟は、ほとんどいつも満床だというのに。深夜二時、私は見回りをするためにナースステーションを出て、白衣の上に羽織ったカーディガンの前を合わせる。東京の桜が満開になったとニュースで見たけれど、廊下はまだひんやりしている。一緒に夜勤に入っている先輩の透子さんは休憩に行った。  足音に気を付けながら個室の冷たいドアハンドルに触れる。ゆっくり引き戸を開けると、シュコーシュコーと人工呼吸器の音だけが響いていた

YouTuber・コウイチ「金曜日のミッドナイト」

金曜日のミッドナイト ・52歳 男性  こんにちは。あ、テレビの取材ですか。事件でもありましたか? あ、バラエティ番組の取材ですか。何もないなら良かったです。いやぁこんな町にも来るんですね。ちなみになんて番組ですか? 金曜日のミッドナイト? それは朝にやってる番組なの? あ、ミッドナイトだから夜ね。俺は朝しかテレビ見ないからちょっとわからんね。朝はアレだよ、ニュースやってるから見るのよ。今日もニュース見てたよ。え、今日やってたニュース? あんまり覚えてないね。なんか台風が近

今井真実|韓国の朝ごはんで心も身体もぽかぽかに

 娘が起きない。窓の外は花曇りの春の朝。あいにくの曇り空だけれども、時折日が差し込み、寒さは和らいでいるように見える。  かれこれ、7時30分頃から娘に声をかけて、もう9時をまわってしまった。かくいう私もうっかり二度寝をしてしまったのだけれど。    娘と初めての二人旅でやってきたのはソウル。娘は無論、私も人生初の韓国旅行だった。昨日のお昼に到着して、今朝は初めての朝ごはん。旅行中は一食たりとも無駄にしたくないから、早く朝食を食べに行きたいというのに、いっこうに娘は起きない。

命を賭けて、この大乱を終わらせる――胸熱の歴史エンターテインメントが誕生|千葉ともこロングインタビュー

作家の書き出し vol.30 〈取材・構成:瀧井朝世〉 ◆唐を舞台にするから描けること——千葉さんはこれまで発表した三作品(『震雷の人』『戴天』『火輪の翼』)とも中国史を扱われていますが、中国史に関しては独学なんだそうですね。 千葉 はい。大学で中国史を専攻していたわけではなく、漢文も専門的に勉強していたわけではありません。でも好きが嵩じて、無謀でもなんでも勉強しながら書いてみようと思いきりました。 ——中国や中国史、中華物に興味を持ったきっかけは何ですか。 千葉 最

自意識を素直に認めよう――日テレディレクター・安島隆の愛読書

 何の気なしにグッズのスタジャンを羽織って外出するほどには、余韻がぷんぷん残っている。約2ヶ月前の2024年2月18日に開催された「オードリーのオールナイトニッポンin東京ドーム」。ドームの5万3千人に、ライブビューイング、配信で見てくれたお客さんまで合わせると計16万人。ラジオモンスターならではのモンスター級エンタメは、ニッポン放送の人気ラジオ番組がもとになったイベント。僕は現在テレビ局の局員ですが、縁あって総合演出を務めました。こんな感じのテレビと関係のない仕事が多いので

三宅香帆の「フェチ小説が読みたい!」| 第1回 綿矢りさの〝アパレル小説〟

第1回 綿矢りさの〝アパレル小説〟 恋愛小説、ミステリ小説、SF小説、ホラー小説、ファンタジー小説、青春小説。この世の小説はさまざまなジャンルに分類されている。  しかし小説を読んでいると、思うのだ。もっと作者のフェチを感じるジャンル分けがあってもいいのではないか!?  小説を読んでいるとき、作者のフェティシズムが漏れ出る文章が現れると、読者としてこのうえない快楽を覚える。映像と違って文章のみで構成される小説は、同じ風景を描くにしても、どのように描写するか、どれくらい書き

衝撃のラストが待ち受ける、恋愛リアリティーショー×孤島ミステリ!|中村あき『好きです、死んでください』インタビュー

 無人島での恋愛リアリティーショーの撮影中、人気女優が殺された。しかも密室で——。 『好きです、死んでください』というインパクトのあるタイトルと、儚げな女性の装画が目を引く本書は、孤島で起きた連続殺人の謎を追うミステリ小説だ。  著者の中村あきさんは、2013年に星海社FICTIONS新人賞を受賞しデビュー。21年に『チェス喫茶フィアンケットの迷局集』で第3回双葉文庫ルーキー大賞を受賞し、本作が初の単行本となる。 「デビュー当時は、自分と同じような本格ミステリファンに刺さる

秋谷りんこ「ナースの卯月に視えるもの」 #001 #002

1 深い眠りについたとしても  夜の長期療養型病棟は、静かだ。四十床あるこの病棟は、ほとんどいつも満床だというのに。深夜二時、私は見回りをするためにナースステーションを出て、白衣の上に羽織ったカーディガンの前を合わせる。東京の桜が満開になったとニュースで見たけれど、廊下はまだひんやりしている。一緒に夜勤に入っている先輩の透子さんは休憩に行った。  足音に気を付けながら個室の冷たいドアハンドルに触れる。ゆっくり引き戸を開けると、シュコーシュコーと人工呼吸器の音だけが響いていた

今井真実|沖縄で「台湾素食」のやさしさを噛みしめる

第7回 沖縄で「台湾素食」のやさしさを噛みしめる  空港に降り立ったとたん、暑くてセーターにじっとりと汗がにじむ。12月でもやっぱりこんなに暑いんだ……東京は凍えるほど寒かったのに。トイレに駆け込み、急いでヒートテックの下着とデニムの下に穿いていたレギンスを脱いだ。ふう、さっぱり。よーしこれで良し。  脱いだ服をスーツケースに突っ込んで、がらがらと引きながら空港の外に出る。空が青い、広い。私、本当にひとりで沖縄に来ちゃったんだ。出張とはいえ、こんなことが私の人生に起こるなん