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2024年5月の記事一覧

【㊗重版】『ナースの卯月に視えるもの』感想紹介

・もつにこみ様 食べ物や季節の描写、まさに秋谷さんが力を入れて書いてくださった部分をこうして噛みしめていただけて、嬉しいです。素敵なご感想、ありがとうございます。 ・マー君様 どんな年代の方でも、楽しんでいただける作品です。「何度も本を置き、深呼吸」、丁寧に読んでいただいて本当にありがとうございます。 ・クルクル☆カッピー様 分かる……分かりすぎます……。あの場面、涙腺崩壊しますよね。この感動を分かち合えることが嬉しすぎます。ありがとうございます! ・SHIGE姐

note代表・加藤貞顕さん大絶賛! 『ナースの卯月に視えるもの』書評が到着!

 最初に本作を読んだのは、note主催の投稿コンテスト「創作大賞」の審査の過程だった。「すごい作品が投稿されているんです」というスタッフの声を聞き、読んでみたところ、ナースの仕事の現場が眼の前に見えるような筆致と、感動的な内容に驚かされた。その後、「別冊文藝春秋賞」の受賞が決まり、大幅な加筆を経てできたのが、この『ナースの卯月に視えるもの』だ。  本作の舞台は、大きな総合病院のなかにある長期療養型病棟だ。患者の4割は病院で最期の時を迎える、そんな場所だ。主人公の卯月は、そこ

「試されるのは、家族です」熾烈で過酷な〝小学校受験〟の世界――外山薫『君の背中に見た夢は』インタビュー

 デビュー作『息が詰まるようなこの場所で』で、東京のタワーマンションに住む人々の焦燥や葛藤を描いた外山薫さん。第二作となる最新刊『君の背中に見た夢は』で挑んだのは、いわゆる〝お受験〟——小学校受験だ。 「かつて小学校受験というと、専業主婦の世界の話という印象が強かったように思います。共働き家庭は、中学校受験が主流でした。私の家庭も共働きで子どもがいますが、小学校受験という言葉こそ知っているものの、別世界というか、自分には関係のない話だと思ってきました。しかし、数年前から、周

岩井圭也が「どうしても南方熊楠を書きたかった!」その理由――和歌山で撮影した40枚超の写真とともにお届け

 小説家にとっては、すべての作品が勝負作である。苦心して執筆した作品は作者の分身同然であり、我が子のような存在だ。大切でない作品など一つとして存在しない。それを承知のうえでなお、私は断言する。  2024年5月15日に刊行した長編小説『われは熊楠』は、私にとって特別な作品である。  小説は、ときに書き手の意志を超えて展開することがある。『われは熊楠』を書いている間、何度もそれを思い知った。  本作は、一八六七(慶応三)年生まれの南方熊楠という研究者を主人公に据えた小説だ。主

大木亜希子「マイ・ディア・キッチン」第4話 料理監修:今井真実

第四話「そろそろ、レストランの営業を再開しようと思うんだ」  朝の空気を取り込むためリビングの窓を開けていると、木製の椅子に腰をかけた天堂さんがそう告げた。澄んだ風が部屋中に流れ込み、彼がクシャミをひとつする。 「寒いですよね。すみません」  慌てて開けたばかりの窓を閉じると、彼はコーヒーをひとくち啜り、「大丈夫。花粉の仕業かも。もうすっかりと春だねぇ」と言って立ち上がり、窓の外に目をやった。視線をたどると、向かいの家の庭に梅が咲いている。水彩画のような淡いピンク色が美しく、

小田雅久仁 「夢魔と少女」〈中篇〉

九 その後も母屋の探索を続け、わずかではあるが新たな情報を得た。居間のサイドボードの上に並べられていた写真からわかったことだが、男はどうやら一人息子だったようだ。四枚の家族写真のうち、いちばん古いものは、男がまだ一歳か二歳のころで、自分の顔ほどもある大きなハンバーガーを手に満ち足りた頰笑みを浮かべている。どんな悪党でも無垢の煌めきを放つ瞬間はあったのだ、という事実を示す貴重な一枚なのかもしれない。  男は両親がかなり歳がいってからできた子供のようで、一人息子が生まれたとき、母

患者さんのQOLを決める〝家族の力〟|秋谷りんこ

「母は、昔から自分でなんでもできちゃう人なんですよ。膝の関節の病気がわかったときだって、こんなのへっちゃらだって言って、一人暮らしして。そのくらい強い人なんです。(中略)それなのに、突然しゃべれなくなって、動けなくなって、口から物も食べられないなんて……どうやって信じればいいんですか。母が寝たきりだなんて、どうやって受け入れればいいんですか」 『ナースの卯月に視えるもの』の一節です。  私は十年以上、看護師として病棟勤務をしていましたが、患者さんのケアと同じくらい大切な仕

【㊗!重版!】『ナースの卯月に視えるもの』感想をご紹介します!

・はそやm様  ご感想を拝読しながら担当編集はボロボロ泣きました。本当にありがとうございます。 ・せやま南天様 創作大賞2023同期のせやま南天さん! ありがとうございます! 秋谷りんこさんとせやま南天さんの対談記事はこちら! ・福島太郎様 最上の誉め言葉をありがとうございます! 卯月最高! ・春永睦月様 深いところまで読んでいただき、ありがとうございます! 優しい物語でありながらも、「看護とはなにか」に深く迫った一冊です。 ・しまうー様 「実は活字が苦手だ

イナダシュンスケ|同情の手羽先弁当

第24回 同情の手羽先弁当  高校生の頃、たまたま隣の席になったFくんとちょっと仲良くなりました。僕も彼も音楽が好きで、当時ギターを練習し始めていたという共通項があったからだったと思います。もっとも音楽の趣味は全く嚙み合いませんでした。Fくんが好きなのはヘヴィメタルであり、僕の好みはイギリスのニューウェーブでした。それはともかく僕たちは、どちらもちょっとぼうっとしたタイプだったこともあり、熱く語り合う親友同士、みたいないかにもセイシュンっぽい間柄になるでもなしに、極めて淡々

死と向き合い続けた日々の記憶を辿って――『ナースの卯月に視えるもの』ができるまで|秋谷りんこ

 私は、二十代から三十代にかけて十三年ほど看護師として働いていました。初めて患者さんの死と向き合ったのは、看護学生のときです。看護学部では座学のほかに病院実習があり、学生は一人ずつ患者さんを担当し、日々関わりながら学びを深めます。  ある日病院に行くと、実習担当の看護師さんが私たち学生を集めました。 「つらいことをお知らせするけど……〇〇さんが昨日の夜に急変して、亡くなりました」     それは私の担当患者さんでした。昨日まで一緒に過ごしていた患者さんが、今日にはもういない。

男子高校生のくだらなくも愛おしい会話が輝く、新感覚青春小説の誕生——金子玲介『死んだ山田と教室』インタビュー

 山田が死んだ。啓栄大学附属穂木高等学校二年E組の人気者。面白くて、誰にでも優しくて、勉強もできる。そんな山田が、飲酒運転の車に轢かれて死んでしまった。夏休みが終わり、二学期初日を迎えた教室は暗く沈んでいた。見かねた担任がロングホームルームで席替えを提案するも、とてもじゃないがそんな気分にはなれない——そこに、声が聞こえてきた。教室に設置された校内放送用のスピーカーから聞こえてきたのは、死んだ山田の声だった。  第65回メフィスト賞受賞作『死んだ山田と教室』は、男子高に通う

門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」#004

第3章 1年後、江戸。  享保10年(1725)秋。府下は黄色い霞に覆われていた。上州方面よりの乾燥した風、いわゆるからっ風が強く吹き、それが砂ぼこりを巻き上げたのである。  からっ風は、ふつう冬に吹くものである。それがこの年に限ってはどういうわけか一足も二足も先に来たので、人々は、 「こりゃあ何かね、天変地異の前ぶれかね」  とか、 「この夏は夕立が多かったから、こんどは水が涸れる番さね」  とか、 「火の用心。火の用心」  などと言い言いした。うっかり竈の火種を外風にさら

門井慶喜「天下の値段 享保のデリバティブ」#003

第2章(承前) 全体に、堂島の米市場は、まず2種類の建物がある。  ひとつは米会所である。市場全体を統括する本部のようなもの。具体的には米仲買の監督、紛争の裁定、相場情報の記録と公開などをおこなう。  もうひとつの建物は消合場で、これは清算所である。主として帳合米(先物取引)の清算をおこなう。  米会所と消合場は、ならんで道の北側にある。川とは反対の方角である。逆にいえば道そのものには何もないので、この空間が、つまりは無数の取引の生まれる現場というわけだった。  淀屋橋時代に

「看護の希望に光を当てたい」――『ナースの卯月に視えるもの』刊行記念エッセイ|秋谷りんこ

 看護師をしていた時、患者さんとのコミュニケーションはとても大切なケアの一つだった。声かけ、傾聴、共感。どの医療従事者よりも患者さんと過ごす時間の長い仕事だからこそ、看護師の言葉は、患者さんへの影響が大きい。患者さんから「秋谷さんに励ましてもらったので治療も頑張れた」「『なんでも言ってくださいね』という一言で心が軽くなった」などと言っていただいた時は、自分の伝えたいことがまっすぐ伝わった気がして嬉しかったし、ホッとした。ご家族に「今日はお風呂に入りましたよ」といった細かい報告